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真鉄のその艦、日の本に
第七話 蜂起
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無精髭が汚い顔に笑顔を浮かべて見せた。津村は「ありがとうございます砲雷長!」と言いながら缶を開けて一飲みし、乾パンに食らいついた。相当喉が乾き腹が減っていたのだろう。

「お前にしては意外じゃったな、まー。基本的にお前は従順じゃし、嫁さん亡くしてからどうも投げやりでのう、適当に首縦に振っとるような所もあったのに、それが艦長にあんなに食ってかかるなんての。」
「甘っちょろいだけだ、中佐にもなってんのに」

缶の中の水をぐっと飲み、長岡は顔をしかめた。

「部下の命を預かって、部下の命を、自分の命でさえも、日本の為に、モノみてぇに使う。そういう仕事してんのに、カッコつけて【良い人】で居たがっただけの話だ。何より自分自身死ぬのが怖かった。それをな、部下の命を守る為に撃てよって、カッコつけて言っただけだ。俺に死ぬ度胸なんて無かったし、部下に一緒に死ねと言う勇気も無かった。それだけなんだよ」
「まぁそう卑屈になんな。」

本木は長岡をなだめる。年の割に若く見える長岡と、老けて見える本木。兄貴と弟のように傍目には見える。

「お前をその歳で中佐にしたのも、お前の【良い人】って側面じゃろ。お前くらいじゃけ、海曹海士以下の連中の名前までいちいち覚えようとして、そいつらの気持ちまで考えようとする幹部は。お前の事を悪く言う先任海曹を見た事が無いわ、幹部なんて先任海曹にゃ冷めた目で見られがちなのにのう。その評価があったけ、お前は今その地位におるんじゃ。それを否定しなさんな。なんだかんだ、艦と乗員を守りたかったのは事実じゃろうて。」

本木にそう言い聞かせられても、長岡はぶすっとした表情のまま、寝返りを打ってそっぽを向いた。まるで拗ねた子どものようで、本木はため息をつく。

「俺には大した事できんけん、そうやって人に好かれようとするくらいしかできる事が無かっただけの話だわ。そうやって生きてきて、本当に必要な判断力をずっと鈍らせてきたんだ。軍なんて、命の取り合いが仕事の人でなしの組織なんだ。その人でなしの組織に於いて人間性で出世できるなんて、この日本が戦いを忘れてる証拠だよ。非常時には糞の役にも立たんのんだって、そんなもんは」
「しかし、古来から戦争は人間がするものです、副長」


唐突に遠沢が言葉を発し、本木と津村はぎょっとして遠沢を見る。長岡も、ピク、と体を震わせ、億劫そうにそちらを向いた。


「機械がいくら発達しても、それを使うのは人間です。人間が戦うという事に変わりはありません。人間性、それは戦闘においては時として邪魔になるものかもしれませんが、その人間性との戦い、葛藤、それも戦闘の一部であると私は思っています。そう簡単に人間性は否定されるものではありませんよ。」
「…随分わかったような口叩きやがるな」


遠沢の視線が
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