第六話 反撃
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和気がどれだけ刃を押し込み、遠沢の 体を引き裂いてやろうとしても、そのナイフはある程度刺さった今の状態から、ビクともしない。引き抜く事さえできない。何故だ、何故だ、と和気が焦る。
「…もう、あなたは普通に殺してあげられないわ」
ぎゅっと閉じて痛みに耐えていた遠沢の目が開く。らんらんと鈍く輝く。
「あなたが東機関を追われたのはね、コストがかかりすぎる、それもあるけど、単純に能力も無いからよ。私を拘束して追い込んでおきながら、殺す事より苦痛を与える事に気持ちが向いてるその非合理性。敵とのじゃれあいを楽しんでるその心。」
遠沢を取り囲んでいた10人少しの和気の表情に、恐怖の色が浮かんだ。それはそうである。
語りながら、目の前の遠沢がその姿を変えていく。所々が隆起し、目鼻口耳、それらの形が崩れる。掴んでいた手足の形も変わる。もう手足ではない。「何か」である。
(でも私もあなたの事を言えないわね。すぐにあなたを殺せなかったから。)
その声は、もはや空気の振動ではなく、脳内に直接響いてきた。
遠沢の手足だったものが、四人の和気の手の中からするり、と抜ける。遠沢だったものが、血に汚れた戦闘服から抜け出して、その塊は、ぐにゃぐにゃと蠢き、ゼリー状で、決まった形を持っていない。
「「「あ……あ…あ…」」」
和気はその、「得体の知れないもの」への驚きと恐怖を隠し切れない。常に余裕を持って他人を見下ろしてきた和気が、怯えている。慄いている。震えている。
不意に、その塊から、数本の触手が伸びた。それは驚くべき速さで一体の和気の手足そして首をつかむ。
次の瞬間。
引きちぎった。それら全てを胴体から。バキバキと皮下装甲に亀裂が入る音の後、ぶちぶちっと鳴りながら筋繊維が千切れ、膨大な血を吹き出しながら和気が四散した。
唖然とするその他の和気の個体。塊がさらに隆起する、変形する。塊から、数十本の
手。それも、マシンガン、拳銃、バズーカ、様々な武器を携えた手。
遠 沢の中から出てきたそれらの火砲が一斉に火を吹く。その弾丸が、恐怖で動くことすらままならない和気の群れを一掃した。射撃音、爆発音、悲鳴。さまざまな 音がないまぜになって、地下五階にあふれる。普通の銃では破られないはずの和気の皮下装甲を、この遠沢の弾はやすやすと貫いていく。
ただ一体を残して、10以上あった和気の体は全てが殲滅された。一瞬の事である。僅かの時間で、あまりにもあっさりと形成は逆転し、まるで想像もできなかった展開に、和気は理不尽さを感じずには居られない。
「ばっばっばっバケモノっ…バケモノだ貴様っ」
(ええ。バケモノよ。)
遠沢が何を思っているのか、不定形に蠢くその「塊」から表情を読み取るのは不可能である。
触
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