暁 〜小説投稿サイト〜
真鉄のその艦、日の本に
第二話  不穏
[1/8]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
第二話

艦のエンジンの重低音が響いてくる。しかし、そううるさくはない。この420mの図体を飛ばしているという事を考えると、旅客機のエンジン音より静かというのは意外である。
驚くほど、揺れも少ない。小刻みな揺れはたまにあるが、船乗りだった長岡にしてみれば、その程度の揺れは揺れのうちに入らなかった。飛空艦とはこんなものなのか、と、改めて実感する。

建御雷は、沖縄の与勝基地から福岡の陸軍基地へと航行を続けていた。処女航海とも言えよう。しかし、その直前にあの戦いがあったので、処女航海、それも日本 初の飛空艦の航海などというのは乗り組む側からしても本来胸が高鳴るようなもののはずだが、今の所、非常に淡々と時が過ぎている。与勝基地を飛び立つ時に は、軍楽隊の演奏も、お偉方の演説もなかった。

「おぉ」

長岡が酒保のある談話室に足を踏み入れると、与勝基地での戦闘で大活躍を見せた6分隊(陸戦科)の面々が和気あいあいとくつろいでいた。
長岡の姿をみると、談話室の全員が一斉にビシッと立ち上がり、背筋を伸ばし敬礼する。
6分隊の、陸軍式の敬礼は海軍とは少し違うようだ。彼らが艦内での普段着とも言える、青の繋ぎを着ていると、少しおかしく見えてしまう。

「おぉ、ご苦労。まぁ座ってくれや」

言われて、談話室の全員が座り直した。長岡は自販機で缶珈琲を買い、6分隊の陣取る長テーブルの席の一つに腰掛けた。

「おぅ、6分隊、こん前は世話んなったのぅ。建御雷がこうしてあるんもお前らのおかげだけん!」
「はっ、恐縮であります!」

元陸軍の戦車乗り達を見回してみると、海軍に比べ無骨な男が揃っているように見えた。スマートな海軍、泥臭い陸軍、この図式は前大戦の頃から変わらない。
そしてだからこそ目立つ。
集団の隅にちょこんと座る、可憐な遠沢の姿が。
このゴリゴリの男たちも、尖って冷たいこの小娘を受け入れている様子だ。不思議な奴だ、と長岡は思った。その戦果も含めて。

「遠沢准尉ィ!敵の半分貴様がやったらしいの!大活躍じゃの!」

長岡に話を振られると、遠沢はそこで初めて長岡と目を合わせた。まるで、自分が見透かされてるような気がした。何とも無機質な、モノを見るような視線である。

「まだまだ、であります。一発外してしまいました。」

遠沢の言葉に、6分隊の一団がどっと湧いた。

「こいつ!またスカした事を言いやがるなぁ!」
「いや、でもこいつは本当凄いんですよ副長!」
「もはや同じ人間に思えませんからね!」

茶化されても褒められても、遠沢は表情一つ変えない。遠沢の周りの兵は、兵と言えども若者らしさがある。しかし、遠沢は…

まるで機械みたいな女じゃの。

長岡は思った。そして、それでもここまで隊に溶け込めていると
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ