第三章
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坂上はあらたまって礼をしてから西郷にこう尋ねた。
「先生は山嵐を得意とされていましたね」
「その通りだが」
「実は私も山嵐をしているのですが」
「思っていた技と違うか」
「型通りにしてもです」
それは間違いないというのだ。
「しかしそれでも」
「相手が頭から落ちんか」
「それはどうしてでしょうか」
西郷に対していぶかしむ顔で問う。
「何故先生の山嵐は相手が頭から落ちるのに私のそれは」
「あれはな、秘密があるのだ」
「秘密?」
「そうだ、秘密があるのだ」
西郷は腕を組み前にいる坂上に話す。今もかなり小柄で坂上から見れば子供の様だ。流石にうっすらとした髭を口元に見ているが。
「あの技にはな」
「その秘密とは一体」
「わしは口で説明することは苦手だ」
身を乗り出して問う坂上にこう返す。
「そういうことはな」
「では」
「実際に技を仕掛けて話をしていいか」
「お願いします、私もです」
坂上の方でもこう言う。
「言葉よりも身体で覚える方なので」
「よし、では今からな」
「その山嵐を私に仕掛けて下さい」
「そうさせてもらいます」
「ただ、頭から落ちるからな」
西郷自身このことを念押ししてきた。
「痛いぞ」
「それは覚悟しています」
「ならいい、それではだ」
こうしてだった、坂上はその西郷が出す本物の山嵐を受けることになった。まず組んでみるが。
それは坂上のそれと同じだった、小柄なので坂上は子供と組んでいる様に思えた。だがその勢いと組手の確かさは彼よりも遥かに上だった。
その西郷がだ、坂上に言って来たのだ。
「今からじゃ」
「お願いします」
坂上も応える、そして。
西郷は山嵐を繰り出した、投げるところまでは一緒だった。
その足払いも、だが。
西郷のそれは普通とは違っていた、足の横ではなく裏で坂上の足を払って来たのだ。
そしてその足の裏は普通ではなかった、坂上の足にくっついてきて。
強く払いそれは彼の身体を大きく下から上に回した、その回りはまるで筆で丸を描く様だった。
そのうえで脳天から落ちる、坂上は頭の頂上に強い痛みを感じて落ちた。
畳の上で暫く起き上がれなかった、だが何とか起き上がってそれで言うのだった。
「あの、今のは」
「足の裏で払ったのじゃ」
「そうですね、今のは」
それはわかった、だがだった。
坂上はその西郷の足、仁王立ちする彼のそれを見つつ尋ねた。
「私の足にくっついてきましたが」
「それなのじゃ」
「それとは」
「実はわしはタコ足なのじゃ」
ひっつく足だというのだ、普通の人のそれよりも床等にくっつくというのだ。
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