第一章
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困った天才
伊吹一太郎は高校生だがIQ六〇〇を誇り理系において様々な博士号を持つ天才である、だが。
「あんたも大変ねえ」
「あんなのが彼氏で」
「何ていうかね」
「困ってるでしょ」
「ううん、そう言われるとね」
伊倉清子は困った顔で返す、茶色にした髪を長く伸ばし眉は細くしている。はっきりとした二重の目にやや大きい薄いピンクの唇だ。鼻は普通の高さだ。
青いブレザーに灰色のミニスカートだ、ネクタイは赤い。その制服姿で席に座ってクラスメイト達に応えるのだ。
「ちょっとね」
「困ってるのね」
「やっぱりそうなのね」
「確かに天才でね」
このことは事実だというのだ。
「何でも発明するけれど」
「天才ってねえ、要するにだからね」
「紙一重だからね」
「はっきり言うとね」
清子自身が言う。
「マッドサイエンティストなのよ」
「もう完全にそうよね」
「あっちの人よね」
「子供の頃に東映の特撮を見て目覚めたらしいのよ」
一体何に目覚めたかというと。
「科学にね、それでその目覚めたのがね」
「あっちなのね」
「マッドサイエンティストの世界なのね」
「そうなのよ」
まさにそれだというのだ。
「まあ目標は世界征服じゃないけれど」
「そこまでいったら完璧だからね」
「完璧なマッドサイエンティストだからね」
「世界征服とか世界破壊とかには興味がないのよ」
幸いそちらには染まっていないというのだ。
「けれどね」
「それでもあれだからね」
「モーツァルト的だからね」
音楽では確かに天才だった、だが人格については色々と言われている。
「そうした人だからね」
「困ってるのね」
「どうしたものかしら」
清子は腕を組んでふう、と溜息をついた。
「今もこうしてお話をしている間にね」
「理科室を勝手に借りてね」
「また怪しいことしてるかもね」
「頭はいいのよ、しかも性格自体は悪くないのよ」
「そうそう、あれで結構紳士でね」
「親切ではあるわね」
今度は彼の性格の話にもなる。
「子供にも優しいしえこ贔屓とかしないし」
「差別もしないしね」
「いい人って言ったらいい人よね」
「意地悪も嫌いだし邪気がないのよ」
邪気がない、即ち無邪気だ。しかし無邪気だからこそ。
「純粋に変な発明とかに走るからね」
「子供がおもちゃ作る要領でとんでもないの作るから」
「この前だって動くバット造ったりして野球部に入れてね」
絶滅した飛べない巨大な鳥である。
「先生に大目玉食らって元に戻して」
「マネキンのからくり人形造ったりねえ」
「そういう人だからね」
「自衛隊がスカウトしたいっていう噂もあるし」
「とんでもない人であるのも事実なのよね」
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