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今時のバンパイア
第九章

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「楽しかったわ」
「楽しくデートされてきたんですね」
「そうなんですね」
「そうよ、今日もね」
「それで飲み物もですね」
「赤ワインだったんですね」
「トマトもね。やっぱりいいわね」
 トマトについても言うのだった。
「赤い食べ物はね」
「まあご主人はあれですからね」
「吸血鬼ですからね」
「まさか皆、彼も私がそうだなんて夢にも思わないわよね」
 部屋にあるファッション雑誌を開きつつ楽しげに言う。
「吸血鬼だなんて」
「今まで先祖代々誰もそう思われてませんね」
「どなたも」
 それは蝙蝠達も言う。
「日本に来てから本当に」
「誰にも疑われたことがありませんね」
「明治の頃の日本では誰も吸血鬼なんて知らなかったし」 
 そうした存在がいるということも知らなかった、西洋文明が入ったばかりだからで吸血鬼の話も伝わっていなかったのだ。
「それでその吸血鬼の知識もね、入って来たのは」
「映画のやつですからね」
「ハリウッドの」
「あれはかなり断定的ですからね」
「偏った知識ですから」
「大蒜もお水もお日様も平気なのよ、実際の吸血鬼は」
 桃香は言った。
「十字架なんて宗教が違えばだし」
「それルーマニアでもですからね」
「種族によっては」
「確かに大蒜が苦手な人もいるけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「私達の一族は全然平気だから」
「何ともないですからね」
「普通に暮らしていても」
「そうそう、ついでに言えば血を吸わなくてもね」
 そうしなくてもだというのだ。
「別に構わないし」
「栄養は他からも摂れますかあね」
「人間の食事からも」
「それで充分よ。もっとも普通の人間と混血を続けたら寿命はそっちになっちゃったけれどね」
 このことについては苦笑いで言う。
「それはね」
「別のそれは構わない様ですが」
「そうなのでしょうか」
「八十年生きられたら満足よ」
 それ位でだというのだ。
「私的にはね」
「何百年と生きずともですか」
「偉大なるご先祖の方々とは違い」
「別にいいじゃない、何百年もなんて」
 右手を横に振って笑って否定する。
「そんなのわずらわしいだけよ」
「では今で何のご不満もないと」
「そういうことですね」
「ええ、ないわ」
 実際にそうだというのだ。
「何もね」
「この国のこの町で明るく生きる」
「それで、ですね」
「本当にね。後はだけれど」
 ここでまた言う桃香だった、今度言うことは。
「あいつ家に呼ぼうかしら」
「その彼氏ですか」
「ご主人様の将来の伴侶となられる方ですね」
「知らないでしょうね、吸血鬼の一族は一夫一妻だって」
 桃香はこのことをくすくすと楽しそうに話す。
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