第二章
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「どうしてもなのね」
「そうなの。もう三年も経ったのに」
「忘れられないのね」
「どうしてもね」
「どうしたらいいのかしらね」
私は自嘲の笑みでまた言った。
「私は」
「忘れられないのならね」
「ええ、どうするべきかしら」
「もう暫く相手の告白を受けなかったらいいのよ」
彼女が私に言う解決の仕方はこれだった。
「一人でいたら。どうかしら」
「一人ね」
「もう思い出しても仕方ないことだし」
こう私に言ってくれる。
「死んだから、あの人は」
「それから三年ね」
「長いわね」
「三年は確かに長いわよ」
そう言っていい時間だった、私にとっても。
けれどの長い間ずっと私は彼のことを忘れられなかった、それで彼女に対して遠い目になって言ったのである。
「それこそね」
「けれどそれでも忘れられないのならね」
「暫く一人でいればいいのね」
「そうしたら?自分に嘘を吐くよりは」
「それよりも一人でいて」
「心を癒す方法は一つじゃないわ」
一人でいるのも方法だというのだ。
「だからどうかしら」
「そうしてみようかしら」
私は彼女の言葉に頷いた、そうしてだった。
暫くの間一人でいた、だが。
その私が夜のバーで一人で飲んでいるとそこにだった。
一人の顔立ちのいいスーツの男が来た、私は彼の顔を見て思わず息を呑んだ、あの彼と同じ顔だったから。
その私に彼は微笑んで声をかけてきた。
「今一人?」555
「え、ええ」
私は気取っているつもりだった。普段からクールぶっている。だがこの時は。
彼のその顔を見て驚きを隠せない顔で言ってしまった。
「そうよ」
「そうなんだね。それじゃあ」
「二人で飲もうっていうのね」
「ああ、どうかな」
彼と同じ笑顔で私に言ってくる。
「今夜は」
「そうね」
気取っていることを装ってそして言ったのだった。
「別にいいわ」
「いいとはどういう意味でのいいなのかな」
「イエスという意味よ」
内心の驚きを隠しながら述べる。
「そういう意味よ」
「そう、じゃあ隣に来ていいね」
「ええ」
丁度私から見て右の席が開いていた。彼はそこに座ってきた。
そのうえでお酒を頼んできた、そのお酒はというと。
「ワインでいいかな」
「ワインね」
「そう、モーゼルね」
「ドイツのお酒ね」
彼の好きなワインだった、このことも同じであることにも私は内心驚いていた。
そのうえで彼に対して言った。
「面白いわね」
「面白いかな」
「ええ、面白いわ」
私はこう答えた。
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