アインクラッド 後編
In the dream, for the dream
[2/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
に想いが伝わらなければ、それは優しさにはなりえません。偽善や、もっと酷い場合には悪と呼ばれてしまうでしょう。逆に、自分が伝えようとしていなくても、相手が想いを感じた時点で、その行動は優しさを持つことになります」
「……どこかで聞いたような台詞だな」
「そうでしょうか?」
脳裏に彼が浮かんだことを知ってか知らずか、彼女は含むように笑った。マサキはレンズの奥で切れ長の瞳を睨むように細めるが、霧の向こうから伝わってくる声に変化は見られない。マサキは一度、吸い込んだ霧を溜息に換えて吐き出し、首を振る。
「……まあいい。尤も、その行動の想いが伝わったのか、今となっては知る由もないがな」
「いいえ。それも違います。……彼にその想いがしっかりと伝わっていることを、私は知っていますから」
「それは一体どういう――」
理屈だ、と問おうとしたその時、マサキの視界それ自体がぐらりと揺れた。揺れ動く霧に乗って、相変わらず穏やかな声がたなびく。
「申し訳ございません。もうお時間のようです。……最後に一つだけ。今言った通り、マサキさんの優しさは、彼も、私も、よく知っています。そんな風に他人を想うことの出来る人は、本当に強いということも。……それを是非、きちんと認めてあげてください。あなたのその優しさが、孤独を感じないためにも。……では、御武運を祈ります」
最後の言葉の余韻が消滅した瞬間、加速度的な意識の剥離が始まった。一気に感覚が薄らぎ、視界を霧の代わりに弱く白い光が覆う。
やがて、訪れたその白い光さえも薄らぎ、完全に消え去ろうかという希薄な意識の中。昏睡へと移行する最後の過程で、ぼやける世界に黒い髪を肩まで伸ばした幼女のシルエットが浮かんでいたのだった――。
「……ん、んん……」
重い瞼を持ち上げると、見慣れた――とは言っても数ヶ月程度ではあるが――天井が現れた。ぼやけた思考ながらに目覚めを理解したマサキは、鉛のようにどんよりと沈もうとする瞼を強引に瞬かせ、更なる休養を要求する身体を起こす。すると、突如眼前にウインドウが開かれ、アラームが忘れていたかのように機械質な音をがなり立てた。どうやら、寝過ごすという最悪の事態は避けられたらしい。
マサキは重たい足取りでベッドを抜け出すと、寝室とリビングダイニングキッチンとを隔てるドアを押し、キッチン部分に置かれたポットからタイマーでセットしておいたブラックコーヒーをコップに注ぐ。
爽やかな苦味で頭のギアを無理矢理押し込み、ようやく軽くなってきた瞼でもう一度大きく瞬きをすると、ウインドウを開いて装備を変更。程なくしてマサキの身体の三ヶ所にライトブルーのポリゴン片が集まり、目元には理知的なハーフリムの眼鏡が、腰元にはシャツとスラックスという服装
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ