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ファルスタッフ
第一幕その七
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第一幕その七

「もう手紙を書いて送ってもいます」
「もうか。何という男だ」
「私はそれを申し付けられたのですが断りました」
「私もです」
 バルドルフォも言う。
「我々のするような仕事ではありませんので」
「全く以って」
「噂は聞いていたが何という破廉恥な男だ」
 フォードも怒らずにはいられなかった。
「どのようにしてくれようか」
「旦那様は無類に女癖が悪く」
「それは聞いていたが」
 その方面でも評判だったのだ。
「女とあれば色目を使い別嬪でもそうでなくても生娘でも亭主持ちでも女であれば誰でも」
「とんでもない奴だな、あの歳で」
「しかもです」
 バルドルフォが続く。
「欲深く無反省で」
「救いようがないな」
「ですから本当に御気をつけ下さい」
「とんでもないことになりますから」
「わかった。ではまずはだ」
 フォードはそこまで聞いて決心した。目が怒っている。
「女房を見張ろう。ファルスタッフ卿もな」
「是非共」
「そしてだ」
 さらに言う。
「何があっても私の財産を守るぞ」
「あっ」
 フェントンはフォードの話を聞きながらふと庭の遠くに目をやる。するとそこにはナンネッタがいた。
「あの人がいる」
「あの方だわ」
 ナンネッタの方も彼に気付いて声をあげた。
「家内だ」
「主人ね」
 フォードとアリーチェもお互いに気付いたがこちらは静かなものだった。
「聞かれたか?」
「聞かれたかも」
 それぞれそれを危惧する。
「ねえ奥様」
「何かしら」
 メグがこっそりとアリーチェに囁いてきた。
「御主人のやきもちはどんな感じかしら」
「それが趣味よ」
 ということだった。
「困ったことに」
「では場所を変えましょう。聞かれたらまずいわ」
「そうね」
 彼女達はその場を後にする。フォード達もだった。カイウスがフォードに対して囁いたのだ。
「聞かれたら」
「そうですな。それでは」
 彼等の場所を変える。庭には誰もいなくなった。しかし右手からフェントンが、左手からナンネッタが姿を現わした。二人は互いに見詰め合って抱き合う。それから話をする。
「ねえナンネッタ」
「何?」
「キスをして」
 うっとりとした目でナンネッタを抱きながら頼む。
「いいかな、いつもみたいに」
「ええ、わかったわ」
「有り難う」
 それを受けてフェントンの左の頬にキスをする。それから彼女は言うのだった。
「誰にも見られていないわね」
「大丈夫だよ。けれど」
「けれど。何?」
「皆にも見せてあげたいよ」
 熱い心で語るのだった。
「僕達の愛をね。この甘い口付けも愛らしい唇も」
「まあ、恥ずかしい人」
「だって君が好きだから」 
 熱い目で語る。
「だからだよ」
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