劇が始まるまで
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「じゃあ俺は劇の打合せとやらに行かねーとならねえからな」
加賀は教室棟のほうにポケットに手を突っ込みながら歩いて行った。それに合わせて周りの人たちは一定の距離を加賀から保って移動していく。
「おい進藤、あいつも囲碁やんのか?囲碁部より強いとか何とか」
「ああ、将棋部の部長だけど、囲碁を真剣にやってた時期もあるんだ」
「しかし、よく分からない人だったなあ。悪い人じゃなさそうだけど」
伊角が不思議そうに加賀の行き先を目で追って、首をかしげる。それに和谷も「ああ」と同調する。ヒカルはそれをスルーしてどこに行こうか二人に尋ねた。
それから約一時間、教室棟で催されている展示ものやカフェに立ち寄って時間を潰した。途中に加賀の言っていた執事カフェを通りかかり、中を覗いてみると加賀の言い分も分かった気がする。三人は苦い顔をしてすぐさまそこを立ち去った。他にも軽音楽部のコンサートや、書道部の展覧会、コンピューター部の自主制作プログラムなどを見学して、時刻は11時前になった。少しでもいい席を取りたいという思いから、教室棟を早足で抜けて体育館に入る。中はステージ以外真っ暗で、今ちょうど前のクラスの劇が終了したらしい。幕が閉ざされて体育館内に電気がつく。
―これで三年B組の劇「お笑い50選」を終わります。11時15分からは三年C組の劇「白雪姫」が始まります―
「おい、お笑いて・・・劇じゃねーだろ」
「いいんじゃないのか?いろいろあって」
パイプ椅子が並べられた体育館の中央の道を進み、ちょうど空いた真ん中の最前列の席に腰を下ろした。ヒカルは持ってきた使い捨てカメラをリュックの中から取り出して膝の上でスタンバイさせる。
「進藤カメラ持ってきたのか」
「ああ、佐為にやろうと思って」
本当のことを言うと自分用にも焼き増ししておくつもりだった。
時間になって、体育館の照明が順番に落とされる。最後の一つが消えると、観客は静かになり、ステージに集中した。
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