第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
007 鍵は情報
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に来るって言ってましたよ。今度、ハイネセン・フィル・ハーモニー楽団と共演するとかなんとか、そのリハーサルですぐには来られないらしいですが」
「なんだ、上手くいってないのか」
フロルは肩を竦めた。
「女の一人や二人、幸せにしてやるのは男の甲斐性だぞ」
「そういうキャゼルヌ先輩だって、独り身じゃないですか」
アッテンボローはフロルを気遣ってか、キャゼルヌに矛先を向けた。
「俺か? 俺はそのうち結婚するさ。料理が美味くて、亭主関白で家を守ってくれるような美人な女性とな」
キャゼルヌは無駄に胸を張った。
「どうですかね、きっと先輩は尻に敷かれて、子供に愚痴るような亭主になりますよ」
「なんだ、妙にリアルなことを言うな、フロル」
「いえいえ、ただの願望ですよ」
フロルはキャゼルヌがこれから3年の後に結婚することを識っていた。結婚相手は元上官の娘で、大層な美人で料理上手。しかも可愛い娘を2人も授かるわけで、こと家庭的な幸福度で言えば、原作上随一の幸せ者なのである。もっともキャゼルヌ夫人はなかなか押しの強い女性で、やりこめられることもしばしばであった。無論、フロルは必ず夫人に味方することを決めていた、既に。
「フロルは黙って立っていれば見てくれはそこそこなんだ。余計なことをしないでイエスを決め込んでいればいいのさ」
「それじゃあもはやリシャール先輩じゃないですね」ヤンがにべもなく言い捨てた。
「言うじゃないか、ヤン」フロルが軽く睨み付ける。
「その点、俺は黙っていたって女性に声をかけられる。まぁ、モテる男はいつだって辛いものさ」
「キャゼルヌ先輩の浮いた話も聞きませんけど」
ラップも身を乗り出して、話に参加している。
「俺が人に弱みを見せると思うか?」
「人に明かすことのできな女性関係とは、いったい裏で何をやっているのやら」
フロルもまた、舌戦では負けていない。舌戦と言うよりは、軽口の応酬であるが。
「できれば私も、フロルが裏で何をやってるか知りたいものね」
一同はその声に、女性的でありつつ凛とした響きを持つその声に反応し、その声の主に顔を向けた。
ジェシカ・エドワーズである。
青いナイトドレスに淡い青のストールを身にまとったその姿は、明らかにその騒がしい酒場には不向きな上品さを持っていた。
「やぁ、遅かったね、ジェシカ」
「不良士官候補生さんも、不良少尉殿になったわけね。フロル、卒業おめでとう」
「これはどうも、可愛いお嬢さん」
フロルは気障がかった仕草で、ジェシカの手を取り、その甲に口を付けた。そして自分が座っていた椅子を引き、彼女を座らせる。
「綺麗なドレスだ、ジェシカ」
「ありがとう、ラップ。ヤン……はどうしたの、口をぽかんとして」
「きっとジェシカ嬢の可憐さに呆然
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