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ファルスタッフ
第二幕その九

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第二幕その九

「あの男を。やっと」
「それは一体何処ですか?」
「お静かに」
 そう言って衝立の方を指差す。
「あそこです。あそこにあの間男と妻がいます」
「そうですか。ではあそこを」
「はい」
「苦しい」 
 ファルスタッフは籠の中から顔を出して呻く。
「何時までここにいるんだ」
「じっとしていて下さいな」
 しかしここでクイックリーがその頭を籠の中に押し込んでしまう。
「今は」
「うぐぐ」
「キスの音がした」
 フォードは信じられない能力で衝立の中の音を聞いた。
「間違いないぞ」
「何と大胆な」
 彼の言葉を聞いたカイウスが思わず呻く。実はそれを聞いたのはフォードだけだったのだ。
「ここで接吻とは」
「君達は右だ」
 フォードはピストラとバルドルフォに衝立の右に回るように言う。
「それでいいね」
「はい」
「わかりました」
 二人もそれに頷いて答える。
「よし。それで私達は左手ですぞ」
「わかりました。それでは」
「ええ」
 今度はカイウスに言うとカイウスも頷くのだった。
「そのように」
「御願いします。他の方々はバリケードを作って下さい」
「あの騎士殿が逃げない様にですな」
「とにかく異常に素早いのです」
 彼はそれをかなり警戒しているのだt。
「ですから。宜しいですね」
「わkりました、それでは」
「そのように」
「暑い。もう駄目だ」
 その中でファルスタッフはまた顔を出そうとするが今度はメグにその頭を押さえられてしまった。そうしてまた中に入れられる。
「うぐぐぐぐ、何時までこんな」
「今はまだです」
「まだか」
「まだですわ」
 こう言って頭を押し込む。その間にもフォードは手筈を整えているのだった。
「もう少し」
「せめて風を」
「贅沢ですわ」
 それも断る。
「今は我慢なさいませ」
「早く終わってくれ」
「何か言い合っているな」
 フォードは津楯に耳を近寄せていた。
「睦言か。それも今のうちだ」
「ではフォードさん」
「はい」
 今度はカイウスに対して答える。
「わかっています。では」
「旦那様は歌っているのかな」
「その割には声が高いな」
 ピストラとバルドルフォも二人の話を聞いて言い合う。
「だがここにおられるのなら」
「もう終わりか、世紀の悪党も」
「さて、中には誰がいるのかしら」
「大方予想はつきますわ」
 メグとクイックリーは洗濯籠の左右にそれぞれ位置して話している。二人は随分と余裕だ。真相がわかっているからだ。
「いい加減に帰りたいのう」
 その籠の中には渦中の人物がいる。彼も随分と災難だ。自業自得だが、

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