第十一話 〜殿〜
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言葉すら状況が状況なだけに敗軍の将の負け惜しみにしか聞こえない。
本来ならば敵への侮蔑と嘲笑の意味を籠めて鼻で笑ってやるところだ。
…だが、私は彼にそれができなかった。
その理由は、彼が私情によって引き際を誤らなかった事だ。
どんなに歳を重ねた将であっても身近な者を殺されて、そしてその仇が目の前にいるのにそれを逃がすというのは難しい事だ。
それを彼は、涙を流しながらも必死に堪え、そして師が命を賭して残した引き際を受け入れたのだ。
勇将の元に弱兵無し。
そんな言葉が浮かんだ。
私は彼に背を向けたまま残りの兵を束ねて陣を後にした。
敵陣に奴宮を向かわせて幾分か経つ頃、それまで鳴り止まなかった謎の怒号と剣激の音は鳴り止んだ。
それも異様な程に突然。
"奴宮が何かをしたのか"
"または奴宮に何か起きたのか"
両者の対極的な結果に私は不安を覚えていた。
それというのも、彼は蕃族諸将の古参組の中でも特に歴を重ねている老将だ。
それも、本来ならば既に隠居をし、次世に家を託し余生を過ごす身であって、決して今回の様に軍を率いていいような人間では無いのだ。
しかし、今回の戦は平時の時に起きた完全な不意打ち的な戦ゆえ、それまで戦時の常識で隠居が決まっているはずの奴宮は偶然にもその隠居が有耶無耶にされていたのだ。
そんな彼が急な有事という事もあり同じ部隊の中で馬を並べるに至るのだが、当然私は彼を陣頭に立たせるつもりは毛頭なかった。
そしてそんな彼が敵情視察を申し出たから"視察"を目的として敵陣へ向かわせたのだ。
そして、その直後にこの異変なのだ。
奴宮がこれに関わっていないというのは考えにくい。
『…』
しかし、私は少数の護衛と共に敵陣から離れた丘の上にいる。
当然事実はわからない。
私は奴宮の身に何も無いことをただ祈った。
『奴宮様は…見事な散り方で戦死されました…ッ!』
だが、帰ってきた兵士達と共に伝えられた奴宮の安否は最悪の結果だった。
『…』
だが、私は涙を必死に堪えながら自分の師の死と散り際を伝えるこの若者を前に何も言う事ができなかった。
だが、別に悲しい訳ではなかった。
寧ろ私を含め、彼の死で悲しみを背負う者は少なく無いだろう。
彼はそれだけこの国の為に長く尽くしてきてくれた重鎮なのだ。
だが、かの若者牌豹が伝える彼の最後を聞いていると、何とも彼らしいというか、寧ろ彼にとっては平時の隠居という道よりも遥かに幸せな最後だったんじゃないかとさえ思えてしまうのだ。
私は周りが悲しみに暮れる中ただ一人密かに長きにわたる戦友奴宮の冥福を祈っていた。
『…以上が、奴宮様の最後でした…ッ』
牌豹が奴宮の見事な散り際の
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