第十一話 〜殿〜
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故そんな一騎打ちにわざわざ挑むのかは分かってはいないだろう。
だが、これはもう経験の差だ。
こればっかりは牌豹自身が兵を束ねる一軍の将にならねば理解は出来ないだろう。
『そりゃぁ!』
『あっ!』
私は牌豹が次に発するであろう静止の言葉が出る前に馬を走らせた。
『凱雲!』
『む?』
私は薙刀を脇にしっかりと挟んで動かない凱雲の前に飛び出した。
『そなたは確か…』
『あぁ、そうとも。私は八年前のあの場にいた者よ』
『…そうか』
『よもや主らから同盟を裏切るとはな…』
『…』
凱雲はその言葉に表情を曇らせた。
別に本心で攻めているつもりはなかった。
多分凱雲達は否が応でも従わなければ行けはかったのは想像がつく。
だが、仮にそうだったとしても我々蕃族が一度でも彼ら北国と共に歩もうとした事。
その事実がどれだけ重く、そして大きかったのかだけは知っていて欲しかった。
そしてもし、今後北国と蕃族がもう一度共に歩もうとした時、二度とその誓いが崩れないようにしたかった。
そんな期待を込めての言葉だった。
『凱雲よ…。行くぞ』
『…』
凱雲は悲しそうな表情のまま馬上でその大薙刀を自らの頭上高くに振りかぶる体制をとった。
『あ!奴宮様!』
そして後ろからは牌豹の声が聞こえてきた。
それから察するにあの構えこそが彼の恐ろしさなのだろう。
だが、そんな事は改めて言われないでも私に慢心は無い。
私の生涯の全てを乗せてこの一瞬にかける。
私も自らの薙刀を後ろに構えた。
『我が名は奴宮!いざ!』
そして私は馬を走らせた。
奴宮という老将との一騎打ちは一瞬だった。
というのも、彼の腕が私に大差をつけられていたわけではない。
かの老将は正しく決死の、引くを顧みないその構えからの一撃を持って挑んできた。
そして、それは正しく彼が一流の"武人"であった証であった。
これは命のやり取りの場である戦場、また一騎打ちにすら今後の余生を根元に置いてしまう並の将ではできないものだ。
彼はきっと私との格付を既に見定め、そして尚挑んできた。
だからこそのあの一撃だったのだろう。
そして、格付を終えて尚挑んできたその理由もまた一流の"将"だった。
周りで見ているだけの敵味方の兵には到底わからないかもしれない。
だが、私は彼が最後に見せた"武人の散り際"を死ぬまで忘れないだろう。
『…見事なり』
私の口からは自然とその言葉がもれた。
そして馬を返し改めて振り返るその老将の亡骸に私は左手で畏敬の意を現した。
"武士とはかくありたいものだ"
私は閉じた瞳の奥でこの老将の様に先は余り長く無くとも、きっと武人の名に恥じぬ散
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