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弱者の足掻き
十三話 「依月」
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で未だ夢の中で霧に包まれているようにさえ思える。ほんの少し前まで共に暮らしていた相手に自分が殺されかけているなど、本当に現実なのだろうか。
 だがそれでも脳に酸素を運ぶために呼吸をする度、喉に触れる冷たい刃の感触が否応なく現実を突きつけてくる。

「一体これはどういうことですか。冗談にしても、少し悪質だと」
「いや何、ここいらで色々はっきりしとこうと思ったんだよ。これ以上見過ごすのはオレの害になりそうだからなぁ。お前、一体何がしたい?」

 一体何を言われているのか見当がつかない。害になりそうな事などしている覚えはないが、おっさんははっきりと確かな確信を持っているらしい。
はっきりさせることなど余りに曖昧だ。最近の自分は周りから見れば変に見えていたかもしれないが、それでもここまでさせるだけの誘発させる何かをした覚えはない。
この状態になっても白が現れない、ということはやはり倒れてから余り時間は経っていないのだろう。白はまだ帰ってきていないということだ。見覚えのない天井、それと地面から大きく一段上がった場所にある自分が寝ている床で一階の部屋だと場所がわかるのが関の山で、この状態から逃れる方法は無い。
 答えなど出ず、開きかけた口から漏れるのは息だけで何も言えず俺はそのまま口を閉ざす。

「ぶっ倒れるような茹だった頭じゃ分からねぇか。なら分かりやすく教えてやるよ」

胸元に手を入れ、おっさんは小さな手帳を取り出す。少し古びた革の装丁のそれは前々からおっさんが使っているもので、何度かそれに書き込んでいる姿などを見たことがある。中を見たことはないが仕事に使っていると言われていた。その手帳が横になっている俺に見えるように開かれる。

「開いたところ読んでみろ」

 日に焼け色あせた白い紙の上、お世辞にも綺麗と言えない読みづらい字だ。薄暗く、光が隣の部屋からの明かりだけの事もある。考えるのが億劫で、読みづらいそれに目を細めつつ俺はそのまま声に出して読んだ。頭がぼぉっとしていて、何を書いてあるのか理解しようとせずに。
 だから何の疑問も持たずに、

「『ガトーカンパニーが波の国の海運、交通事業を強圧的に接収。それに歯向かった上記のカイザを公開処刑。それ以後国内は荒れたが詳細不明。大凡一〜二年ほど後、橋を建設為の護衛、金銭的理由より表向きは野盗対策の任務が木ノ葉隠れにて―――」

 そこまで読んで、

「――ナルトの班に』……え……あ、れ?」

 やっと気づく。
 それが、そこにあっていいはずの無い内容だということに。

読み上げたのと非常に良く似た、全く同じ内容の文章を俺は知っている。何せ自分で書いたのだ忘れるはずがない。
思い出すたびに、思い出すために、幾度も書いた原作の流れをしたためたそれが、何故目の前の男の
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