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弱者の足掻き
十三話 「依月」
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いがあるから自分は死ぬわけにはいかないのだ、と。自分の欲望を肯定するための材料にしたのだ。
 自分の行いは夫婦の願いを叶える「依月」のためのものでありしょうがない。そう自分に言い聞かせて動いた。

 おっさんの元にいるのは楽だった。「依月」を知らぬ相手であり適度に手を抜いて好きにできたからだ。相手に望まれる何かをする必要などなかった。軽んじていた、と言ってもいいだろう。

 白は偶然の産物だ。死を遠ざけるために利用できると思った。全く見ず知らずの相手であり「依月」である必要が一片たりとてなかったのもあるだろう。
 問題があったとすれば白が女性だったことだろう。原作との違いを突きつけられ、自分に従う白に確かにあった白の未来を捻じ曲げたことを目の当たりにさせられた。そこから目を逸らしながら、そんな白をも理由に仕立て上げた。自分が白の理由を奪い、自分を白の理由にさせてしまったのだその責任を取らないといけない。「依月」の為にという横に「白」の為という理由を作った。責任を押し付ける先を増やしたのだ。

 責任を押し付けて、ずっと目をそらして。
 だけど、初めて自分の意志で人を、二度目の殺人を犯した時に保っていた何かが崩れてしまった。それでも無理矢理に保っていた均衡は白が女性である事が目を逸らせない事実として目の当たりにさせられ壊れてしまった。
 陳腐な言葉だが、全てがどうでもよくなってしまった。
 言い訳が通じないこと。自分がしてきた事。それを俺は改めて理解してしまったんだ。

 見えてきた視界の中、窓の外の暗さがあまり変わっていない事に気づく。どうやら倒れていたのはさほど長くはないらしい。窓と反対側に目を向ければおっさんの姿がすぐ横にいるのが視界に映った。状況を見るに倒れた自分を運び布団に入れてくれ、今も横にいてくれたのだろう。保護者として普通の事なのかもしれないが有り難いことだ。普段のことを思えば起きたことを伝えて礼を述べるべきだろう。

そう声を出そうとして、喉に冷たい感触が当たっていることに俺は気づく。

「おう、起きたか」

それが刃物の冷たさだと理解するよりも早く、おっさんは俺に声をかけた。

「先ぃ言っとくが変な真似したら殺すぞ。まぁ、言わなくとも動けないかそれじゃあよ」

 何時もの下らない冗談を言うに軽い口調で、冗談にならない言葉が依月に降りかかる。

「なんの、冗談を……」
「スプーンでもフォークでもねぇ。今朝研いだばかりの俺が愛用してる業物の小刀だ。動かせばスパッといく」

 何なら試してみるか? そういうおっさんの言葉に俺は何も言い返せない。頷けば冗談でなく、本当にその手が一文字に引かれそうに思えた。
 未だ熱を帯びた頭は現状を理解するには役者不足で、明朗な解答を弾け出せなどしない。まる
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