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弱者の足掻き
十三話 「依月」
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けた白の膝がおっさん顔に突き刺さる。衝撃に倒れるように後ろに飛ばされたその姿を見ながら、白は支柱に刺さった小刀の柄をその踵で弾く。振り払った白の手が空中で回転するそれを掴む。白が掴んだ瞬間、氷の膜が砕けて剥がれる。
 白はそのまま相手に対し踏み込もうとし、

「止めろ白。そこまででいい」

 俺の言葉にその動きを止める。
 ほんの僅かな間だけ逡巡したように静止。そして俺のすぐ横まで白が下がり姿勢を下げる。

「何の問題もなくヤれましたよ。後始末も恐らく何とかなるかと」
「殺るなよ。……いいんだよ別に。今だけはそれこそ『劇』を演じる『役者』みたいなもんだったんだから。気にしなくていい」
「ですが」

 未だ重い体を俺は起こす。
 見れば天井に続く濡れた痕は白が立っていた場所から伸びていた。水の形質変化の一種だろう。足に触れている水にチャクラを流し細く伸ばして動かし操作した。難易度は違えど手で触れた水が形を変えられるのだ、足で触れていても変えられるだろう。

 地面と床の段差のせいで白の足元は見えづらかったのも気づかなかった原因だ。今思えばご丁寧に手を晒したのは視線を下に向けさせないためでもあったのだろう。
 何よりも驚いたのは氷だ。どの程度まで出来ているのか知らないが、氷の形質変化に違いなかった。

「今のお前が持ってると危なっかしい。寄越せ」
「あ……」
 
 白が握っている小刀をその手から奪う。
 声を漏らし不満そうにしている白の頭に手を置き、よくやったと褒めてやる。事実、あの状況で大したものだ。
 適当に白の頭を撫でつつ、俺はこちらを見ているおっさんに視線を向ける。

「形勢逆転、ってやつだなこりゃ」
「そうですね。口と鼻から血を流して酷い見た目ですよ」

 おっさんの姿は酷いものだった。利き腕の指は何本かが変な方向に曲がり、逆の腕には千本が二本刺さって血を流している。顔は蹴られたせいで鼻は曲がり血が出ている。
 服の袖で雑に顔を拭い、おっさんは口の中の血を床に吐き出す。

「そりゃお前の犬に言えよ。で、オレはどうされる。そっちの猟犬的には殺されてもおかしくなさそうだが」
「別にどうもしませんよ。目立つのは嫌ですからね。ただ、今まで通りってわけには行きません」
「当然すぎるほど当然の話だな。これからは針に触るような互いに無視に近い状態だ」

 本心がどうであったとしても殺し殺されの関係に一時なった。既に一線は引かれ、取り返しのつくものではない。

「ずっとそのままってわけにもいかないでしょう。どうするつもりですか」
「夜逃げでもするよ。お前らを見捨ててこの国から出る。何日かで適当に用意して、準備が出来次第オレは雲隠れさせてもらうわ。忍里が縮小されたり侵略されるほどの旨みがない国っ
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