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弱者の足掻き
十三話 「依月」
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備があるのだろう。知人に家を尋ねるよう言ってあるだとかそのへんかもしれない。
 白もそれをおっさんの言葉で理解しているはず。出来れば何事もなく終わらせたいはずだ。
 最初の動きでおっさんを排除できなかった以上、現状できることは無い。
 おっさんが言うよりも早く、白は抜こうとしていた苦無や千本、持っていたポーチを地面に落とす。その衝撃で水風船か何かが破れでもしたのだろう、水が流れ白の足元を濡らす。何も持っていないことを示すように手も晒す。

 白が武器を置き、少しだけ喉にかかっていた圧力が弱まる。逃れた喉の窮屈感から俺は深く息を吸う。そして何となくだが、おっさんに文句を込めた軽口を言いたくなって俺は口を開く。

「殺せないのはそっちもじゃないですか。ただの“フリ”だけでそんな度胸があるようには見えませんし」
「……実際に殺しする側としてはそう思うってか。確かにこれじゃそう思われても仕方ないかもなぁ」
「そもそも白に見つかった時点でミスでしょう。考えてなかったんですか」
「確かに話に時間かけすぎたが……最初から何とかなる算段はあった。お前の事情をある程度は予想してたしなぁ」

 おっさんは胸元に刺さった千本を抜き、それを刃を持たぬ方の手で握る。
 そしてそのまま、

「ま、タカをくくられて特攻でもされたら困る。ちょいと度胸見せとくか」

 それを俺の手に突き刺した。
 手の甲を貫き下の床まで刺さったそれに鋭い痛みが走る。手が焼けるような、異物が自分の体にある感覚。声にならない悲鳴を上げかけた俺の喉は触れたままの刃を思い出し声を押し殺す。
 おっさんはそのまま千本をグリグリと、刺さった傷口を抉るように動かす。

「あ……ぐ……ぁ、っ」

 殺しきれなかった声が漏れ、喉にピリリと皮膚が切れた痛みが走る。
 
「――――!!」

 一層険しく、今にも下手人を殺してしまいそうな瞳を白は浮かべる。
 どうでも良さそうに白を見ながら、抜いた千本を更にもう一度俺の手に突き刺してからおっさんはそれを抜き取る。

「本気の度合いは分かってくれたか。殺すわけにはいかないが……塩でも塗りこんでついでに指の一本でも弾いとくか」
「いえ、十分、ですよ……こういうのって、慣れが必要だと思ったんですがね」

 自分のことを思い返しそう告げる。俺は今でこそ繰り返して慣れたが、最初の頃は凶器で人を傷つけるのを躊躇っていた。

 前に俺も同じことを言われたことがある。凶器を向けたら相手が「そんな度胸あるものか」と。あの時は少し話を聞く必要もあったし『練習』のためにすぐ殺すわけには行かなかった。だから取り敢えず逃げられないよう足の指を切り落としたらすぐに相手は目の色を変え怯えた。

 手の痛みにそこまで思い返し、俺よりはマシだ
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