小夜.
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「 ねえ、お姉ちゃん。わたし好きな人ができたのよ。 」
妹の小夜が大きな瞳を三日月のように細くして、爆弾発言をした。
「 ああ、これで74回目の告白でしょう。 」
わざとらしくため息をついた。
そして、少し蒸らしたポットの中にたっぷり入れた紅茶を、そっとカップに注ぐ。
甘いふわっとした香りが鼻孔をくすぐった。
今日はローズティ。甘い香りのこの紅茶は、ゆっくりしたいときに選ぶ。
「 お姉ちゃん、ちゃんと数えているのね。わたしでさえ、わからないくらいなのに。 」
小夜はいつだって、そうだ。
好きな人ができたら、私に必ず報告する。三日月みたいに目を細めて、にこにこしながら嬉しそうに。
でもそんな報告も、もう、爆弾ではない。仮に爆弾だとしても、それはポップコーンがはねたときのような小さな小さな爆発だろう。
小夜の好きな人は、くるくる変わる。
それこそ表情が変わるように、私が同じ紅茶を2日連続飲まないことのように。
「 お姉ちゃんは、恋はしたことあるの? 」
誰もいない、静かで裏にうっそうとしげる森がよく見える、小さな庭。
さわーっと静かに葉がこすれる音に、ちゅんちゅんと小鳥のさえずりがいいBGMになっている。
ぐいっ、とティーセットを置いたテーブルの、わたしの向かいの小さな椅子に座って、彼女は顔を近づける。
短めに切りそろえられた前髪の下の、名前の通り夜空のような大きな黒い瞳がきらきらと輝いた。
小夜の顔なんてまじまじと見たことがなかったけど、改めてみたら姉の私から見てもきれいな顔をしている。
白い、すべすべした陶器のような肌。つやのある肩を少し超えた髪。
大きくよくうるんだ目は、どことなく子犬のような愛らしさがあるし、笑うとえくぼができるところなどもどこか幼い顔に似合っている。
そして、そんな可愛らしい容姿だからじっさいに好意を持つ男子生徒も多いし、小夜は移り気だからころころ好きな人が変わる。
だからこそ、彼女は恋多き妹なのである。
私は…どうなのだろう。
小夜より少し背は高く、髪は少し短めかもしれない。
色は白いほうだと思うけれど、これといって特徴があるわけでもない。
無論、小夜ほどきれいな顔はしていないと自己評価する。
まあ、自分の容姿のことなんてじっくり考えたことなんてないからわからないけど。
きれいな実の妹の、好奇心できらきらした表情に思わずどきりとしてしまう。
わたしはなるべく平然として、ローズティをぐいっと飲み干した
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