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戦場のヴァルキュリア 第二次ガリア戦役黙秘録
第1部 甦る英雄の影
第1章 人狼部隊
鋼の虚構
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代理は出撃を渋り、我々は怖気ずいている」

 アンリの言葉に集まった兵士は動揺する。目の前の女性士官の台詞を要約すると「敵が大部隊に見えるのは相手のブラフだ」という意味になる。帝国が誇る最新型の準中型戦車の威圧感と1度の敗走が目を曇らせていたのだ。徐々に熱がこもりはじめたところでアンリはさらに続ける。

「幸いにも我が方には帝国製の高火力な野戦砲がある。これがあれば増設された部分を破壊できる。そして手元には十分な弾薬と武器が人数分そろっている。奴らはもう攻めてこないと高をくくっているはずだ。こちらは砲を作戦通りに配置して明日の朝日を待てばいいだけだ。怯える要素などない」

 表情は変わらないが、これは彼女なりの鼓舞だ。勝利につながる要因を列挙し、彼らが予想する敗北の可能性を引き下げることで士気を高める。いかなる状況に置かれても諦めず、希望を見つけろ――というのが彼女の軍人としての先輩から与えられた訓示である。


 ・ ・ ・ ・


 ヴァーゼル川流域一帯は朝方になると急激に気温が下がる。ヴァーゼル市では地理的な条件も合わさって濃霧が生じ、オラトリオ鉄橋の周囲では北部並みに冷え込むことで有名だ。その気候から川には特殊な魚が棲息し、釣り人からは人気の場所だが、そんなこと帝国軍人には全くもってどうでもいいことである。
 早朝の警備に当たっていた二人はあまりの寒さにやる気が出ない。

「聞いたか? 俺たち、まだ1週間はここにいる予定らしいぜ」

「おいおい……嘘だろ? 酒も女もない橋の上にあと1週間かよ。こりや皇女様から勲章が出るな。間違いない」

「勲章より酒だ。それか一生遊んで暮らせる金が欲しい」

「違いない。武勲なしの馬鹿貴族はウマイもん食えるんだから、ガリアの方がそこはマシだよな……あのデブ、前線で調子に乗って捕まってるし」

「ファウゼンにあんなゲテモノ使わなきゃ勝てんアホ大将が帝国の新聞じゃ英雄的軍人になれるんだからな」
 散々愚痴をこぼした後、二人は適当に辺りを見回し、基地に戻ろうと来た道を引き返す。
 その時、橋の橋梁に後付けした左側の砲座が、爆発した。
 早朝○五○○、オラトリオ鉄橋奪還作戦が発動する。


 ・ ・ ・ ・


「ヒルデがスナイパーを排除した! カサブランカは敵戦車隊を排除、対戦車兵は右側のトーチカを破壊しろ!」

 野戦砲による基地への砲撃を合図に多方面から同時攻撃を開始する。ガイウスとギュスパーが撃った対戦車槍がジャイロ回転をしながら右側の砲座を吹き飛ばす。『ヴェアヴォルフ』用に弾頭に螺旋を描く溝が彫られた対戦車槍(ランカー)は従来のものより高い破壊力を誇り中戦車を正面から撃破できるほどである。アンリたち突撃隊は橋の橋梁から死角にある小屋から飛び出
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