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戦場のヴァルキュリア 第二次ガリア戦役黙秘録
第1部 甦る英雄の影
第1章 人狼部隊
ヴェアヴォルフ
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 この時に敗走寸前の正規軍を立て直したのがアンリ・クロウ少尉であり、その際に彼女は帝国軍の重戦車に対して対戦車地雷と鹵獲車両を改造した自走爆弾で迎え撃ち主戦力を全滅、残された僅な歩兵を数で包囲し降伏させヴァーゼル市防衛に成功する。
 これがアンリの最初の活躍であり、この時の作戦と指揮能力が評価され、数年ぶりに義理の父娘は再開を果す。
 そして時間は始めの部分に戻る。
 
「ヴァーゼル市防衛戦の活躍は俺さんも耳にしてる。無人のトラックに爆薬を満載して戦車にぶつけたらしいな」

「使える物を使ったまでであります。自軍の車両ならば帝国も油断すると考えたまでです」

 だらしなく着崩した制服と醒めた目のラムゼイとは対照的に、アンリは見事なまでの小綺麗に後ろで束ねた髪と隙のない制服姿である。青みがかった長髪と僅かに青のさした鋭い光の瞳はダルクス人の特徴だ。硬く結ばれた一文字の口からは生真面目な職人気質が覗く。
 
「お前さんの指揮能力は軍の偉いさんも評価しててな。しっかし、一部が反発して昇進は望み薄なんだよこれが。そうなりゃこれ以上の活躍は難しくなるんだが、それについてどう思うよ。うん?」 

 ラムゼイにとって、自分の腹の内を簡単に見抜いてくる人間は大の苦手だ。諜報部云々以前に、生来の気質であり義理(書類上)の娘であるアンリは今まで会った誰よりも不得手と言わざるを得なかった。それがこの異様な雰囲気を形成する要因でもあるのだが。

「ガリア公国の国民のためになるならばどのような指令であろうと構いません」

「(だぁから何で分かっちゃうんだよ。やり辛ぇったらないぜ)……そりゃよかった。数日前に『イェーガーズ』の隊長が戦死して部隊を動かせねぇ。陸軍に拘りがないってんなら、そこの隊長を任せる」

「了解しました。アンリ・クロウ少尉、これより『特務部隊第422小隊』隊長に着任します」

「この書類にサインしたらさっさと支度してメッペルへ行け。辞令書だ、道中に暇潰しにでも読んどけ」

「はっ。これにて失礼します少将閣下」

 堅苦しい態度に辟易したラムゼイは、背中越しに手を振り退室させる。扉の閉まる音がした後、ため息をついた。

「ありゃ親に似たのかねぇ……生き写しじゃねぇの」




 翌日、諜報部の輸送車でメッペル市に入ったアンリを待ち受けていたのは、小さなキャンプにたむろする黒衣のガリア公国軍兵士たちだった。新しく支給された黒と赤の制服の部隊章に描かれた今にも噛みつきそうな猟犬を確認してようやく彼らが新しい部下なのだと理解した。アンリの知る軍人からは大きくかけ離れていたが、中には犯罪者や民間人もいるのだから多少は致し方ないとアンリは解釈した。

「アンタが新しい隊長さんかい? クロウ少将から話は聞い
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