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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十話 邂逅
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ここなら常にドアを視認出来るし万一の場合はラートブルフ男爵を人質にも取れる。もっとも人質として役に立つかどうかは疑問だ。

「……死んだと思っていた」
「……死んださ、フレーゲル男爵は死んだ。ここにいるのはフェザーン商人、ギルベルト・ファルマーだ」
そのままお互い黙り込んだ。

「……妙な名前だ、何が有った?」
「……伯父に殺されるところをヴァレンシュタインに助けられた」
「助けられた?」
「ああ、助けられたのだ。もう三年になるか……」

納得のいかない表情をしているラートブルフ男爵に三年前の事を話した。ミッターマイヤー少将を殺そうとしたこと、ミューゼル、いやローエングラム伯が邪魔した事。対立している時に伯父がヴァレンシュタインとともに現れた事、そして伯父が私を殺そうとした事……。

「その後私は密かにフェザーンに落とされた。伯父上が懇意にしていた商人に預けられ商人として育てられたのだ。そして今が有る」
「……そうか、そんな事が……」
ラートブルフ男爵が首を振っている。想像もつかなかった、そんなところだろう。

「何故私に気付いた?」
髪型を変えた、表情も以前に比べれば別人のように柔らかくなった。近づけば分かるかもしれない、しかし遠目では分からないはずだ。そしてラートブルフ男爵は昔と変わっていない。彼が私に近づいたのなら分かったはずだ。

ラートブルフ男爵が笑みを浮かべた。
「声だ。卿の声を聞いたように思った。それで周りを探した。随分変わってしまったので分からなかった」
「……」
声か……、確かに声は変えられない。

「ようやく卿を見つけたが確証が持てなかった。でも卿がコーヒーを飲む振りをして周りを確認した事、手鏡で後ろを確認したことで卿だと思った。周囲に隠し事が有る、その事で怯えている、そうだろう」
そう言うとラートブルフ男爵はゆっくりと胸ポケットに手を入れた。ブラスターを持つ手に力が入る。彼が取り出したのは手鏡だった。思わず苦笑が漏れた、ラートブルフ男爵も笑っている。皆考える事は同じか……。

「卿に謝らなければならないと思っている」
笑いを収めたラートブルフ男爵が生真面目な表情で話し始めた。
「謝るとは?」
「……前の内戦でフロイライン達を誘拐したグループの一人が私だ」
「……」

「あの時はあれが正しいと思った。だが結局はブラウンシュバイク公を、リッテンハイム侯を死に追いやる事になってしまった。戦いを避けようとした公達の方が正しかった……」
「……済んだ事だ」

俯いているラートブルフ男爵を見て思った。今になって考えてみれば領地替えが上手くいかなかったのは必然だったのかもしれないと……。あの策は内乱を防ぐことよりブラウンシュバイク、リッテンハイムの両家を救う事に主眼が有った。

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