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季節の変わり目
秀策と佐為とsai
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 対局は奥の隅の席で行われた。照明の暗い中、集中した面持ちで両者容赦なく戦う。塔矢は二人の対局を食い入るように見つめていた。対局が終わり、緒方は佐為の腕に感心した。アマでこれ程打てるとは、俺もうかうかしてられんな。佐為の強さに驚くとともに、対局中に緒方は一点気になることがあった。

「秀策のこすみ」

それを聞くと佐為は嬉しげに緒方に返した。

「はい、この前因島に行ってから秀策に興味が湧いたと言ったら、ヒカルが秀策の本を貸してくれたんです。つい使いたくなって」

「因島・・・。秀策の生まれ故郷ですか?」

佐為の隣で対局を観戦していた塔矢が尋ねると佐為は「はい」と答え、先月ヒカルと秀策巡りをしたことを話した。

「進藤と?何でまた」

「ヒカルが誕生日だから旅行に誘われたんです」

進藤の誕生日など僕は今まで知らなかった。男同士で誕生日プレゼントなんか送りあうことなど塔矢門下を除いて一度もない。だから藤原さんの口から出てきた言葉に自然と違和感が生まれた。それは緒方も同じだった。

「進藤が秀策好きだとは知らなかったな。それにしてもあいつが秀策巡りをするなんて」

「進藤は秀策の署名鑑定士なんですよ」

塔矢は緒方が言うなりそう口にした。それを聞いて緒方は訳が分からないという表情を浮かべる。

「署名鑑定士?」

「以前倉田さんが囲碁フェスティバルで進藤と会ったんですが、彼は売られていた碁盤が偽物だということを見抜いたんです。裏に書かれた署名を見て。それに進藤は秀策に関しては何故かかなり関心が高いんです」

「ほお」

ヒカルの新たな一面を知り、緒方はますますヒカルに興味が湧く。そして碁盤の横に置かれたビールを一口飲んだ。それにしても、進藤は藤原佐為と随分仲がいいらしい。

「藤原さんは進藤と付き合いが長いんですか?」

「いいえ、今年の夏に知り合ったばかりですよ」

夏に、知り合ったばかり?それで旅行?それに俺が聞いた話では進藤は週に何度も藤原佐為に指導していると・・・。この会話が緒方にとってはどうもしっくりこなかった。

「進藤とはどこで知り合ったんです?」

「和谷が紹介してくれました。私は和谷とネット碁を通して知り合って、実際に会ってみようとした日に和谷がヒカルを連れてきていたんですよ」

ネット碁。緒方は目の前の人物に焦点を合わせ、こう呟いた。

「sai・・・」

「はい?」

塔矢はそれに対して小さく笑いをこぼした。佐為は緒方のシリアスな表情に首をかしげる。眼鏡の奥の瞳が揺らぐ。

「緒方さん、お酒が大分回っているんじゃありませんか」

「・・・ああ、分かっている」

そう答えるも、緒方はグラスのビールを一気に飲み干した。


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