七章 『氷の学び舎』
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達ばかりだった。そして自分は、一瞬ではあるが、躊躇した。隙を見せたのだ。
「アカン! 避けぇ!」
小太郎は即座に跳躍し、大声で夏美達に向かって叫んでいた。
すると、獣のような叫びを上げとともに、とんでもない勢いで何かが飛び出して来た。それは大きな口を目一杯開いて、目の前にある物を飲み込もうとしている。
このままでは全員が食べられてしまうだろう。彼女らの悲鳴は、吹雪の中に虚しく響く。
「避ける? 誰にものを言っている?」
その言葉とともに、エヴァンジェリンはクッと指を持ち上げた。すると突然、分厚くて巨大な氷が地表に現れた。壁のようなその氷はエヴァンジェリン達を守るように、飛び出して来たモノを阻んだ。そして衝撃とともに、鈍い音が響いた。
「ナンじゃこれは!」
氷壁に阻まれてその姿は見えないが、聞くに絶えない醜悪な声が、突然現れた氷壁に悪態をついた。すると、氷の壁が音を立てて崩れ落ちていく。姿が見えないために、エヴァンジェリンが解いたのだ。
「えーっと……カエルっすか?」
半ば聞くように美空が呟いた。
氷壁の向こう側にいたのは、醜悪な姿の悪魔だった。ずんぐりとした丸い巨体に、細かい牙が並んだ大きな口。両生類を思わせる四肢と短い尻尾。背には氷が、剣山の如く生えている。そして頭には二本の触角があり、その先端には先程喉を噛み千切られた筈の少女が付いていた。
どうやらあの少女の姿をした触角はいわゆる疑似餌であり、それに釣られた者を捕食するためのもののようだ。
「カエルだとしても半端な奴だな。成体なのか幼生なのか分からんぞ? というかカエルに触角は無いだろ」
「んーカエルというよりアンコウに似てない?」
裕奈も思ったことを率直に言う。確かに、この体型に触角があればそう思うのも無理はない。
「疑似餌を用いるのはチョウチンアンコウが良く知られていますが、どちらかと言えばカエルアンコウの方が近しいかと――」
「ボケがぁ! たかが人間風情が、このバエル様を愚弄するかぁ!」
夕映が丁寧に解説をするが、悪魔『バエル』はそれを大声で遮った。同時に、バエルの唾液なのか気味の悪い色の体液が撒き散らされる。
「うぉあ!?」
素っ頓狂な声を上げて、千雨は氷壁の残骸に転がり込んだ。見ると、他の者達も同様にしていたようだ。ただ二人を除いて。
「エ、エヴァンジェリンさん……」
話している途中に遮られた事で、夕映は他の者よりも反応が遅れてしまったのである。本来なら、全身にバエルの体液を浴びてしまっているはずだ。危険極まりない悪魔の体液をだ。
しかし、それをエヴァンジェリンが庇ったのだ。エヴァンジェリンならば問題なく回避できるだろうし、なにより不死身である。だが、ただの人
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