第二部
第一章 〜暗雲〜
九十五 〜猛将たち〜
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潜り、宮中へと進む。
あちこちに、敵兵と近衛兵の死体が転がっていた。
「酷いものだな……。恐れ多くも、宮中で刃傷沙汰とは」
溜息混じりに、何進が言った。
「土方。もう、漢は終わりだな」
「何進殿。滅多な事を仰せになられては」
「良いのだ。なあ疾風、お前だってそう思っているのだろう?」
「い、いえ……その……」
「口には出しにくいか。だが、これでは権威も何もない事を天下に露呈してしまった……ただでさえ、黄巾党の一件があったというのにな」
自嘲気味に、だが何処か寂寥感のある何進の物言い。
自暴自棄になっているのではなく、寧ろ悟りを開いた……とでも言うべきか。
「さて、まずは月を探すとするか」
「何進殿。恐れながら、まずは陛下をお守りせねばなりますまい」
「ふふ、程立。敵も同じ事を考えるとは思わんか?」
何進に振られた風は、動じる素振りも見せずに即答した。
「ですねー。玉を取るのが、何よりも最優先と考えるのが普通でしょうか」
「ならば、もし宮中で何か事を起こすつもりだとすれば、だ。まずは陛下を狙って動いている筈だ」
「しかし、何進殿。それならば尚更、陛下のところに急がねばなりますまい?」
「いや……。もし陛下の御前で鉢合わせなどすれば、却って陛下の御身に危険が及ぶかも知れん。それに、陛下に手をかけるような真似まではするまい」
「何進殿。……しかし、陛下は貴殿の」
「わかっているさ、俺だって甥の事を思わない訳じゃない。ただ、月は何としても守り通したいのだ」
何進の言葉には、熱が込められている。
真名を預ける程の仲だ、月が何進を信頼しているのはわかる。
だが、単なる信頼関係ではない何かがある。
……それを問いかけられる雰囲気ではなさそうだが。
「歳三殿。……何やら、剣戟の音が聞こえませぬか?」
疾風の言葉で、思考を中断する。
成る程、剣戟の音だけではなく、血臭も漂ってくる。
「……いかん。土方、急ぐぞ」
そう言うと、何進は駆け出した。
突然の動きであったが、ともあれ付き従うより他にない。
「何進殿。一体何が?」
「その方角は、太傅の部屋があるのだ!」
「では、月が襲われていると?」
「そうだ!」
「あああ、お兄さん待って下さいですー」
案の定、風が遅れ始めた。
「風、私の背に乗れ!」
「わかったのですよー」
しゃがんで風を背負い、すかさず駆ける。
「疾風、先に行け!」
「はっ!」
疾風はともかく、何進が思いの外敏捷なのには驚かされた。
大将軍の肩書きは、伊達ではないという事であろうか。
……いや、あれは火事場の馬鹿力の類いやも知れぬな。
「て、敵は一人だぞ!」
「取り囲んで一気にかかれ!」
飛び交う怒声。
「甘い!」
「ぐはっ!」
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