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タンホイザー
第一幕その六
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胆な歌い方で我々に挑戦しある時は君が勝ちある時は我々が勝った」
「どれも素晴らしい勝負だった」
「よき思い出だ」
「しかし栄冠は君だけが得た。いつも君だけだった」
 騎士達も言いヴォルフラムもさらに言葉を続ける。
「君の魔力と純粋さが混ざり合った歓喜と苦痛に満ちた歌は貞節な乙女の心すら虜にしてしまい君が去った後秘めの心は最早歌を聴こうとはしなかった」
「歌をか」
「そうだ。蒼ざめた姫の御心は君の歌だけを欲していたのだ。だから友よ」
 タンホイザーを見て語る。
「姫の為に戻るのだ。彼女の星がまた新たに我々を照らすように」
「そうだ、タンホイザーよ」
「戻るのだ」
 騎士達もヴォルフラムと共に彼を呼ぶ。
「戻れ、ここに」
「帰って来るのだ」
「友人として」
「あの殿堂に」
「争いも不和も終わったのだ」
 ヘルマンが厳かに彼に告げる。
「だからこそ。戻るのだ」
「私は。あの殿堂にいていいのか」
「そうだ、戻るのだ」
 ヘルマンもまた強い声で彼を呼んだ。
「この世界へ」
「エリザベート」
 彼はまたエリザベートという名を呟いた。
「私が去った世界。この美しい世界にまた私は」
「帰って来た、緑の騎士が」
「素晴らしい騎士が」
「天は私を見下ろし草原は豊かに飾られている。春の限りない優しい響きは歓喜をあげて私の中に入っていく」 
 エリザベートを想いつつ歌う。
「甘美に、そして激しく私のこの心は彼女の下へ」
「彼の不遜を砕いた優しき心を讃えよう」
 ヘルマンと騎士達も歌う。
「さあ我等の歌を人々の耳に響かせよ。陽気に生気ある響きとなって全ての者の胸から歌われるのだ」
 ヘルマンが角笛を吹くと森全体からそれに応える角笛の声が返って来た。タンホイザーは今森と殿堂に帰って来たのだった。かつて彼が去ったその世界に。

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