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駄目親父としっかり娘の珍道中
第32話 本当の強さとは諦めの悪い事
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知れない。
 其処に行けば、友達とか沢山出来るのかも知れない。そんな少女らしい思いがあった。
 その淡い思いを打ち砕いたのは、右手に感じる感触だった。
 とても生々しい。そして、薄気味悪い感じがした。
 見ると、右腕を誰かが掴んでいるのだ。血塗れになっている人間の手が。

「えっ!」

 驚き、声を挙げてしまう。それはまだ手だけだったが、徐々に全貌が明かされる。
 其処に居たのは血塗れになった人間であった。
 全身傷だらけになり、死肉の塊になった筈の人間がなのはを凝視してその腕を掴んでいたのだ。

【死人ならば、俺達の元へ来い! それが死人になった者の運命なのだから】
「い、いやぁ!」

 その腕を払い除ける。右手には死人の血がべっとりとこびり付いている。
 血と腐肉の匂いが染み付き吐き気を促してきた。
 必死にそれに耐える。だが、その後にやってきたのは更に数を増した腐肉の手の群れであった。
 無数の腕がなのはを掴み取り、死人の世界へと誘おうとする。

【逆らうな! お前は既に死人なんだ!】
【死んだ人間ならば俺達の元へ来い!】
【抗うな! それが死人になった者の末路なのだから!】
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたくない! まだ、まだ死にたくない!」
【諦めろ、お前は既に死人となったのだ】
【お前に帰る場所などない! 此処がお前の帰るべき場所なのだ!】
【そうだ、此処には大勢の仲間が居る。もう寂しい思いをする事はないのだぞ】
「!!!」

 ふと、なのはは抵抗を止めてしまった。仲間が居る。もう寂しい思いをする事はない。
 その言葉が、なのはの抵抗する意思を打ち砕いてしまった。
 彼女が最も恐れる事。それは孤独だった。
 生まれて間もない頃、両親の元を離れさせられてしまい、一人孤独の時を過ごした彼女にとって、孤独がいかに恐ろしいか良く知っている。
 しかし、それを彼等が埋めてくれると言う。この死人達が、自分の孤独の寂しさ、怖さを埋めてくれると言っていたのだ。
 ならば、それもまた良いのかも知れない。そう思うと、なのはは抵抗する意思を捨ててしまった。
 このまま死人の世界に落ちても構わない。其処に行けば沢山の仲間が待っているのだから。
 もう、寂しい思いをする事などない。孤独に涙する事もない。
 徐々に回りを死人の腕が埋め尽くしていく。その数は数百も数千もある様に思えた。

【そうだ、お前の来るべき場所は此処なのだ!】
【来るんだ。俺達の居る死人の世界へ】
【仲間だ、また仲間が増えた】

 回りからそんな声が響く。だが、そんな事どうでも良い。おぞましい声だが、いずれ自分もその声の仲間入りを果たすのだから。
 そう思い全ての意識を手放そうとする。後は彼等に身を委ねればそれで良い
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