第四章、終幕 その2:峰を登り
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ソツは中年男性と同じようなゆったりとした衣服を着込みながら、ソツは部屋の戸棚にごそごそと手を突っ込み、そこより代えの包帯や小さな徳利のようなものを取り出して近付いてきた。
「それよりもケイタク様。傷は痛んでおりませんか?左腕に大きな傷を負っていたようですが」
「え、ええ・・・少し痛むだけで何ともありません。それよりも、此処は?なぜあなたが此処に居るんです?それより、リコや、ベルはどうしました?」
「順を追って説明します。が、今は腕を捲って下さい。傷の様子を見なければならないので」
言われて初めて慧卓は、自らの恰好に気が付いた。持参していた麻の下着の上に現地のものであろう羽毛を利用した厚手の上着を着込み、左腕の二の腕にぐるぐると包帯が巻かれていた。僅かに血が滲んでいるのはまだ傷口が塞がっていないためだろうか。
ソツがそれを解くと、麻糸で縫合された痛々しい赤紫色の傷跡が露となった。傷口から浅黒い肉筋が見えているのに、慧卓は顔を引き攣らせる。しかしソツは安心させるように微笑んだ。
「此処特製のポーションです。裂傷などの傷の回復が早くなります。Dommadi wyu's akko das ejete lummo?」
「Yen,dasd qui.」
男性が徳利の蓋を空けて、中身の透明な液体を傷口にかけていく。恐らくアルコールと同種の成分なのだろう、噎せるような酒の臭いが鼻を突き、同時に傷口にびりびりとした熱帯びた痛みが伴った。慧卓は身を捩りたくなるがソツが見ている手前、情けない真似は出来なかった。
必死に瞼を閉じて痛みを我慢していると、液体を注ぐのが終わったらしい。
「炎症も酷くありませんし、化膿も見られません」
「そ・・・そうですか。ソツ様。その人に、有難うって伝えてもらえますか?」
「ええ。Geppel. Eqimun do suien, Danm」
「Haha. Zo buim sdoumen.」
中年の男はからからと笑みを湛えて、徳利を持って家を出て行く。余分な液体を拭きとると、ソツは傷口に新しい包帯を手際よく巻いていく。
「我慢強い人だ、と言ってましたよ」「は、はは・・・そうですか」
「では話をしましょうか。此処は白の峰の山腹にある集落です。村より追放された私共は秋の山中を彷徨う中、此処の村人達に迎え入れられまして、以来幾つかの集落に人を分けて、この峰一帯を生活の拠点としているのです。今日まで私共は集落の家屋の修繕を行ったり、或は狩猟のために得意の弓を用いて人々の信頼を得ようとしておりました」
包帯を巻き終えて固定すると、衣服を整えて両者は互いに向かい合う。慧卓はソツの話を静かに聴く。
「三日前の事でした。獲物に飢えた熊の遠吠えが聞こえたという報せを受けて、私は護衛の
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