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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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ある声が慧卓の耳に届いてきた。それが誰によるものか、判別がつくよりも早く、慧卓は意識を落とした。

『Para・・・to W'sia?』
『だいじ・・・まだいき・・・』


ーーーーーー


 意識を落とした慧卓は、幻影のように形を留めぬ世界を漂っていた。初めは空虚な砂漠のような場所であった。そこをふわりふわりと浮かんでいると、瞬きをした瞬間には世界は実に自然に、違和感を感じさせる事もない程、鉄色に色を変えた。まるでモノクロのような壁面。無声映画のワンカットを切り取ったような、覚束ないその場所を見ると、慧卓は何故か郷愁の念を覚えた。
 段々とそこが何処なのか分かってくる。木の床を境に段差が作られた場所は玄関口。壁面にある白く四角いスペースは照明のスイッチだ。それを過ぎて広がるのはテーブルを置いた居間である。壁際にある教科書や歴史本の類が詰められた本棚がり、ローボードにはゲームのパッケージが乗っかっている。それを見て慧卓は此処が何処かを理解し、だらしなく床に寝転ぶ私服姿の自分自身を見付ける。

『ここ・・・俺の家か?・・・あれは、俺?普通に生活してるじゃん・・・』

 その時慧卓は、なぜか部屋の片隅を見なければいけない気がした。そこには一台のベッドが置かれており、その上には可憐さ溢れるリボンが特色の、女性用のハンドバッグが置かれていた。

『おいおい。誰か連れ込んでいるのか?これ女物じゃないか。随分恵まれた生活ですねぇ』

 自らのすけこましの具合に呆れていると、身体が自然とそよそよと漂い始め、静謐の居間から離れていく。身体が向かう先には何故か色彩がはっきりとした、キッチンが存在していた。冷蔵庫の無機的な銀色やマグネットの緑色、ラップを入れる箱の橙色も、そして戸棚の白色も全て理解出来た。
 視点が上昇して、斜め上からキッチンを覗き込む格好となった。奥にある黒色のガスコンロの上にはフライパンが置かれ、火を下部から炙られており、フライパンの上にはじゅうじゅうと音を立てる油と一切れのステーキ用の肉が置かれていた。振りかかった塩胡椒の点々や肉の赤みも見る事が出来て、幻影にしてはやけにはっきりとした光景であった。

『肉・・・ああ、そういや昔は苦手だったっけ。ステーキだなんてそんな脂っこいの・・・』

 旨み溢れる湯気を出す肉が、フライ返しによってくるりと引っ繰り返され、じゅうじゅうと腹を空かせる心地の良い音を立て始めた。慧卓はフライ返しを握った手のしなやかさ、繊細さに内心でびくりとする。それは見間違いの無い女性の手であったのだ。
 視点が再び下降して、その女性の横顔が(つぶさ)に分かるくらいの場所に移動する。笑みを浮かべれば季節外れの華も咲くであろう可憐な顔立ち、淡く緩められた桃色の唇。そして首の辺りで結わかれたきめ細
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