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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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砂の沼が広がっているんです」
「沼、ねぇ」

 リコが言う沼とは、一体どういうものなのか。底なし沼と同じように、砂に足を踏み入れた途端ずるずると身体が沈んでいく事なのだろうか。アリジゴクの巣を思い浮かべていると、リコは喜色が滲む笑みを湛えて続けていった。自分の体験を人に語るのがとても嬉しいのだろう。

「ドワーフが暮らす場所というのは、砂と木々の間にある、とても不思議な場所なんです。雨の清水が川から流れて、それを挟むように大きな灌漑地帯や堤防のための林が広がっています。建物は石造りのものが多くて、白の峰には及びませんけど、遠くには雄大な山々が臨めるんです。
 食べ物も変わっていますね。酸味が利いた果物が向こうでは豊富で、市井ではとても重宝されているんです。何でも、『炭の肌にならない』ためだとか。後、木々の中に住む生き物の中でも、特に鳥はとても鮮やかなものが多いんです。僕が見た中で一番珍しかったのは、尾羽は海のような水色、身体の二倍はある主翼や艶のいい体毛が宝玉のような深い碧に染まっているのに、その瞳は夜の彗星のように煌びやかな蒼に包まれているんです。生物の神秘をそのまま見たような感じがして、とても感動しましたね」
「俺はお前の素晴らしい台詞に感動するよ。将来、お前は良い詩人になれるぞ。人の生き死にを詠うのも、自然を詠うのも同じくらい難しいが、それ以上に誇り高いものだ。俺はそう思っている」
「よしてください。僕はそこまで立派な人間にはなれませんよ。せいぜい、将来のために延々と筆を動かすくらいしかできませんって」
「ははっ。謙遜するなって」

 照れくさそうに笑うとリコは鍋から丸い木の容器に、火で温めていた粥を盛った。一口大の兎の肉と千切ったパン、また道中の村で手に入れたニンニクを混ぜたものであり、身体を温めるには丁度いいものであった。

「これ、どうぞ。身体が温まります」「ああ、ありがとう・・・ん、うまいな」

 肉の臭みまでは消せてないが、しかし冷え切った身体が喜ぶのが感じられる。爪先から五臓六腑にまで染み渡る。匙を使ってずずずとそれを味わっていると、外からの風に乗って、『ぐるる』という動物の低い唸り声のようなものが聞こえてきた。それに混じって悲哀に溢れた嘶きもだ。二人は手を止めて互いを見詰める。

「・・・おい、聞いたか?」「・・・ちょっとだけでしたけど、でも聞こえました。・・・ラプトルですか?」
「かもしれないな。もしかしたら近くに居るかもしれない。少し様子を見て来るよ」「気を付けて下さい。外は凄い雪ですから」

 急ぎ剣を取って慧卓は洞窟の入り口まで駆け付け、そして大いに驚く。そこには先程、地面に一本の木を突き立てて馬の手綱を止めてあった筈なのに、馬も、そして木も無くなっているのだ。地面に大きく抉れたような痕、そ
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