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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その1:女修羅
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れをキーラは思い出したのだ。
 まさかと思いながらもキーラは尋ねた。

「まさか言ったの?好きだって」
「・・・ああ。言ってしまった」
「・・・信じられない。なんなのあなた」

 詰問じみた口調に対して、アリッサは大きな謝罪と後悔の念が篭った表情を返す。そして彼女は視線を逸らすように深々と頭を下げた。心の端にある淡白な理性が、それをすべきと彼女に告げた結果の行動であった。それがまたキーラの心を煽り立てる。

「なんなのよ・・・ふざけているの!?」
「・・・ごめんなさい」
「はぁっ!?なんで、なんで私に言うのよ!?それは、コーデリア様に言いなさいよ!馬鹿にしているの!?」
「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「・・・冗談じゃない。聞いてられない!」

 話すのも嫌だとばかりにキーラは立ち上がり、宮廷の庭によく似合う清楚な顔立ちを歪める。それは王女に対する誓いに猥雑な横槍を入れたアリッサに対する怒りを秘めたものであり、しかし一方で、自分よりも早く想いを告げた事に対して屈辱を感じている風に見えない事もなかった。仮に第三者の視点を借りるとするなら、寧ろキーラの本音は後者に位置するのではなかろうか。彼女とて慧卓に少なからず想いを煩わせる一人なのだから。だがそれが真実であるかどうかを確認する事は出来ない。キーラがこれ以上の会話を拒絶しているからだ。
 身を焼くような怒りと同居させるかのように、キーラの澄んだ瞳には哀しみの涙が浮かんでいた。椅子から荒々しく立ち上がると、彼女は唾を捨てるかのように、はっきりとした訣別の言葉を吐いた。

「王都に帰るまで、決して、ケイタクさんに近付かせないから!・・・見損ないました、本当に!」

 きっとした彼女の瞳はすぐに家屋の入口に向けられ、そのままキーラは家を出て行ってしまった。その足取りの荒々しさは燭台の火をゆらりと揺さぶる程のものであった。
 俯かれたままのアリッサの視線はずかずかと床を踏み付けるキーラの足に向けられ、それが夜の闇に消えて行くと力無く床に落とされた。肘をテーブルに突いて掌で目を覆いながら深い溜息を吐くと、蟠り続けていた内心の情動が嗚咽となって口から漏れ出る。コーデリアのみならずキーラすら裏切ってしまい、彼女からの信頼を失ってしまった。自らの浅薄な行動に失望するように、その夜、アリッサはただただ落胆していた。そうする事でしか、今の彼女に罪を自覚させる方法は無かったのだ。
 急な豪雨の如く現れた修羅場とは対照的に、至って平穏無事な空気が立ち込める傷病兵の天幕の近くで、慧卓はリコを捕まえて旅の同行の説得にあたっていた。物資の運搬くらいしか仕事が無かったリコは彼の話を聞き、瞳を少年のように輝かせていた。未知なる北の霊峰を歩く事は余程魅力的に思えたのだろう。

「頼める
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