第九章 双月の舞踏会
第四話 自由騎士
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い部屋の中に響き渡る。
そう、少女が今いるこの部屋には、何もなかった。
精々あるのは、少女が今座っている椅子と寄りかかり打楽器代わりにしている机、そして部屋の隅に置かれた古びた一個の書架。
それだけであった。
他の家具の姿など何処にもない。
元々この部屋にあった、部屋を飾り立てる様々な財宝も、美しい高価な家具も全て売り払ってしまったのだ。
机と椅子しかないそんな奇妙な部屋が、トリステインの国王が仕事をする場である執務室だと分かる者は誰もいないだろう。
そして、こんな部屋にただ一人いる少女こそ、この部屋の主でありこの国の女王―――アンリエッタ・ド・トリステインその人であった。
実のところ、最初この部屋には、少女が座る椅子も机もなかった筈だったのだが、さすがに机がなければ仕事が出来ず、仕事に使う資料を置くための書架がなければ仕事に支障があるとのことで用意されたのだ。
どこをどう見ても一国の主が使うようには見えない執務室の中で、唯一女王らしいものと言えば、アンリエッタが頭に被った王冠だけであった。
「もうそろそろ着く筈ですが……ラ・ロシェールからは竜籠で来るはずですし。予定ならもうそろそろ着く筈なのに……」
アンリエッタの指先が机を叩く音が更に強まり。
コンっ! と一際鈍く大きな音が執務室に響くと同時に、机を叩く音が消えた。
「まだですか?」
机を叩く音の代わりに、入り口に控える衛士に向かってアンリエッタの声が向けられる。
「未だアニエスさまは戻られておりません」
アンリエッタの問いに、間髪入れず衛士からの返事が返ってくる。
隠しきれない焦りや苛立ちが混じる女王からの質問を、ただの衛士が戸惑うことなく直ぐに答えることが出来たのは、先ほどから何度も同じ質問をされていたためであった。
そして、同じように返ってくる返事に、アンリエッタは机に爪を立てる。
ガリっ、という木が削れる音とともに、机に小さな傷が出来る。古い傷だらけの机に、見れば同じような傷が机にいくつも見えた。
「何かあったのかしら……」
胸の奥に締め付けられるような痛みが走り、無意識に胸元を握りしめた時。
「銃士隊隊長アニエスさまご到着!」
「っ!!」
衛士の呼び出しを告げる声を耳にしたアンリエッタは、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。反射的に直ぐに通すよう口を開きかけたアンリエッタだが、思いなおすように口を閉じると、窓に向かって小走りに駆け寄った。窓に駆け寄ったアンリエッタは、窓ガラスで自分の姿を確かめ髪を軽く撫でつけると、机に向かってゆっくりと歩き出す。机の前まで歩いたアンリエッタは、胸に手を当て一度大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐いた。
「お通しになってください」
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