第九章 双月の舞踏会
第四話 自由騎士
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にある、数少ない家具の中の一つである机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出すと士郎に差し出した。
受け取った羊皮紙の一番上には、下半分だけの百合紋花押が押されている。
士郎は無言で最初に受け取った任命状と今受け取った羊皮紙を上下につなぎ合わせた。
「二枚で一組となっています」
アンリエッタの言葉通り、任命状に押された上半分の百合紋花押と二枚目に押された下半分の百合紋花押がピタリと一致した。
「二枚目に書かれている通り。トリステインはシロウさんと、シロウさんが指揮する騎士団に対し、あらゆる援助を約束しますし、責任はわたくしが持ちますが、わたくしを含め誰もシロウさんたちに対しどんな命令もすることは出来ません。そして、シロウさんの『騎士』の取り消しや、騎士団の解散はわたくしにしか出来ません」
「ひ、姫さま、流石にこれはあまりにも……」
あらゆる意味でとんでもない騎士と騎士団の誕生を目にしたルイズが、震える声で止めようと声を上げるが、アンリエッタの視線は士郎から外れることはない。
アンリエッタの強い視線に晒されながら、士郎は大きすぎる報奨をどう断ろうかと考えていると、
「実を言えば、これは報酬などではないのです」
「え?」
「?」
その思考をアンリエッタの一言が止めた。
ポツリと呟くように口にしたアンリエッタの言葉に、ルイズと士郎の戸惑ったような声が上がる。
どういうことだと疑問の視線を向けられたアンリエッタは、顔を僅かに落とすと、力ない声で話し始めた。
「先の戦争で、ルイズが死が避けられない殿軍を任されたのは、わたくしの浅はかな考えが原因です。二度と同じようなことは起こさせないと決意はしていますが……絶対ということはありません。まだ、未熟すぎるわたくしです。ないとは言い切れません。そんな時、止めてくれる力が必要なのです。何にも束縛されない力が......」
弱々しく顔を上げたアンリエッタの縋るような視線が士郎に向けられる。
「報奨と言いながら、こんなことを頼むのは本当に厚かましいのですが、どうか、お願いいたします。どうかっ……どうかこの弱い王を助けてください」
祈るように組まれた手を胸に押し当て、アンリエッタは必死に士郎に言い募る。
まるでそれは、どうしようもない状況に落ち入った幼い子供が助けを求めるかのようで。
「姫さま……」
その余りにもか弱い姿に、ルイズの口から悲しげな声が漏れる。
「……頭を上げてくれ」
小さな、囁きかけるような声にも関わらず、それは執務室に響き渡るように広がった。
「シロウ、さん?」
声に誘われるように顔を上げたアンリエッタは、潤んだ瞳で前に立つ士郎を見上げる。
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