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無明のささやき
第二十章
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駒込の奴のマンションを見張っている。俺もお前に言われるまで気付かなかった。お前に悪いことしちまったと思って、奴の動きを監視しているんだ。もし、奴が佐久間の仲間なら何らかの動きをすると思ってさ。」
 力なく微笑んで、飯島は言った。
「すべて片付いた。南、西野会長、佐久間、そして彰子も死んだ。みんな死んでしまった。竹内と俺だけが生き残った。」
 箕輪は絶句している様子だ。しばらくして漸く言葉を発した。
「どういうことなんだ。いったい何が起こったというんだ。」
「すべて、ここ数日のうちに起こったことだ。電話で話せる内容じゃない。」
「つまり、俺は無駄骨を折ったってことか。」
「いや、やはり、向田敦は奴らの仲間だった。お前が、見張っていたから、奴は佐久間達に合流できなかった。本当に助かった。」
 最後に飯島を救ったのは箕輪だ。向田が佐久間等に合流していたら、飯島は今頃こうして息をしているはずもない。箕輪の満足そうに頷く顔を想像し、思わす微笑んだ。そして続けた。
「捕まった竹内が喋れば奴も芋づるで逮捕されるだろう。」
「そうか、やっぱり仲間だったか。俺も、人を見る目がないってことだ。」
「それより、別れてから何日になる。」
「一週間だ。けっこう大変だった。張り込みなんて初めてだし、夜は結構寒いし。」
「会社の方は大丈夫なのか。」
「しょうがないから、例の民間受注の話を出して、休暇の延長をたのんだ。」
 飯島はまた力なく笑った。友のいかつい顔を思い出した。たった一週間しかたっていないのに、懐かしく、心が和んだ。その顔が見たいと思った。
「もう、そっちの方は放っておいても大丈夫だ。警察にまかせればいい。どうだ、これからどこかで合流しよう。お前にだけは全てを話しておきたい。佐久間さん、祥子、南、会長、それぞれがどう生きて死んでいったか、正直に話したい」
「ああ、いいだろう。俺だって最初から関わってきたんだ。聞く権利があるはずだ」
「ああ、それにお前は俺の命の恩人だからな」
「そんな大袈裟な。ところで、お前、これからどうするつもりだ。就職のことだ。」
「さあ、考えていない。」
「お前、心機一転して、仙台に来ないか。仙台は本当にいい所だぞ。人情が細やかで、物価は安い。冬はスキーそれ以外の季節はゴルフ。自然はたっぷりある。お前の就職は俺が何とかする。」
 箕輪は精一杯の心遣いをしてくれている。就職は、箕輪の世話にならなくても、贅沢さえ言わなければどうにでもなる。かつて、和子と歩いた仙台の街を思い浮かべた。仙台か。それも悪くない。死ねないのなら、どこかで生きていかなければならないのだから。
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