幕間+コーデリア、アリッサ:おやつはいかが?
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に貯め始める。彼女としては全て善意による行動であったのかもしれないが、結果として招いたのは惨憺たる悲劇であった。容赦の欠片の無い責めを受けてアリッサはそれを痛感し、只管に落胆しているのだ。
責めるような頻りに反省するような居たたまれない空気が流れる中、慧卓は深き呼吸をし、あたかも生死を分かつ修羅の戦場へと赴くような気概を固めると、極々自然な動作で食べかけのパイを食べ始める。周りがぎょっとして彼を見遣るが、慧卓は一瞬パイのどぎつい風味に硬直しただけで全く手と口を止めなかった。いつも通り、まるでバターを塗ったばかりの白パンでも食べているかのように、楽々とアリッサが作ったパイを食していく。
そんなこんなしているうちに、慧卓はたった一人で、アリッサのパイを全て頬張って胃に収めた。仰天するやら感激するやらでアリッサが目を輝かせ、他の二人は正気を疑うかのような、或は体調を心配するかのような視線をやる。慧卓は水を一杯飲んで口を落ち着かせると、少しばかり抑揚の欠いた口調で感想を述べる。
「御馳走様でした。これはこれで美味しいです」
『!?!?!?』
「ほ、本当か、ケイタク殿!?」
「ええ。味に奥深さがあって、とても長く楽しめる味わいです。特に、柑橘類の甘酸っぱさとニンニクの香りが合っていて、風味も良い。ただ、皮や尾っぽを入れたのは間違いでしたね。その部分だけ苦みがあって、アップルパイ特有のさくさくとした食感を邪魔しちゃってます」
「そ、そうか・・・」
「でもそれ以外の点はとても上手に出来ていますよ。林檎の乗せ方も上手ですから、実も崩れたりしません。次から一生懸命頑張れば、もっと料理上手になれます。今度から食材の使い方も覚えればの話ですが」
「そうか・・・そうだよな!よし、そうと決まれば今から街に出て料理本を買うとしよう!ケイタク殿、感謝するぞ。大いにな」
アリッサはそう残して、凛々しさを感じさせる歩きで宿から出て行く。風のように消えて行った彼女の背中を見る事無く、慧卓は尋ねる。
「行きました?」
「ええ。もう行ったわよ」
「そうですか・・・・・・うぅ・・・」
支えを失った振り子のように、慧卓は床に倒れ込む。咄嗟に熊美が彼の身体を支え、コーデリアが手を握って意識の安否を確かめる。
「け、ケイタクさん!」「慧卓君!あなた無茶をやるわね。全部食べるなんて驚きだわ」
「あ、あんな悲しい顔されたら、たまりませんから・・・うえ、香辛料の後味が強烈だ・・・、口直しを・・・」
「はい!これをどうぞ!」
ぱっと慧卓の口に突っ込まれたものは、コーデリアが自作したアップルパイだ。余計なものなど含有されていないし、林檎がヘドロの如き味となってもいない。何処までも素朴で品の良い、普通のアップルパイの味である。だがそれが今の慧卓にと
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