幕間+アリッサ:酔いどれの悪夢 その1
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伊達に近衛騎士をやっているわけではない。酔いが身体に回っているというのに体術に素晴らしいキレがあり、路地裏の闘争や抗争で鍛えられたであろう男らに、抵抗の意味が無い圧倒的な暴力を振るっていく。文字通り鉄で覆われたブローが的確に相手の顎や胸部を叩き、時には裏拳が炸裂して鼻を砕いていく。蹴りは慈悲など全く見受けられず、人体の幾つかの急所に狙い澄まされて威力を発揮していた。身体にしみ込んだ人間の英知を実に下らぬ場面で扱っていた。まさに酒乱の暴挙である。
一人の男にアッパーカットと裏拳のセットを叩きこむと、彼女は最後まで残っていたおできの男に目を付けた。男は手を前に構えてぶるぶると命乞いをしていたが、アリッサは情け容赦なく男に迫り、無意識に伸ばされた男の両腕ごと男を壁に押さえつけると、鉄拳を顔面に、膝蹴りを腹部に打ち付けていく。元々弱っていた男は碌な抵抗も出来ず謂れもない制裁を受け続け、血を流しながら昏倒していった。
アリッサがその者から興味をなくしたのはそれから十秒ほど経った後だ。ふと気を取り直したのか、男を投げ捨てて眼下の惨状を見下ろす。誰しもが痛みに呻き倒れ伏す様だ。僅かな者だけが店の端に寄ってたかり難を逃れていた。
「おい、店主!」
「ひぃっ、へ、へい!」
ぎらついた視線を受けて店主は怖気づく。
「・・・さっきの男は何処に行ったぁっ?」
「へ?だ、誰?」
「私の隣に座っていた男だっ、どこ行ったんだ、ごらァっ!!」
「あ、あいつは、機嫌が悪いとこの先の色町に出掛けるんだっ!いや、出掛けるんです!そこで、娼婦を強姦紛いにヤルってのが趣味だって、あいつは言ってたぜ!いや、言ってました!」
「そうか、色町だなぁ・・・?ふざけやがって・・・何様のつもりだっていうのよぉ・・・」
「・・・あ、あの、御代は?無いのでしょうか?」
それを尋ねてみる店主の何と肝の据わった事か。アリッサは苛立ったように懐から代金を取り出してカウンターに投げつけた。紐で固く締められたモルガン銀貨が30枚、即ち300モルガンであった。
茫然自失となっている店を置き去りに、アリッサは店の外へと出た。
「糞がっ・・・浮浪者如きが、私の大切なものに手を出すなど・・・!」
一頻り暴れ回ったせいで身体が火照って、どうにも喉に渇きを覚えてしまう。そんな不快な思いを感じながらアリッサは一路、ロプスマの東部にある色街の方へと足を向けた。
外見は至って普通の佇まいだ。娼婦や男娼などが居を構え、そこを拠点として生活の糧を勝手に稼いでいる事から、自然とそこだけが色町と呼ばれるようになっているだけで、特別趣向を凝らしているわけではない。通りの傍らで軟弱な男が、チンピラ紛いの男に蹴り倒されているのも、他の場所では十分に起こり得る事であった。
「下手に
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