幕間+アリッサ:酔いどれの悪夢 その1
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男である。擦れ違う間際、避けると思っていた男がアリッサの肩にぶつかってきた。
「っ、気を付けろ!!」
「・・・」
男は視線もやらずに過ぎ去っていく。水を差された気分であり、アリッサは不満を顔に露わとする。そしてふと通りの路地に見えた酒樽の看板に目を惹かれ、一瞬ためらった後、そこへと足を向けて野暮ったい木製の扉を開けた。
中では下卑た男達であふれかえっていた。猪のように笑い、赤ら顔で酒を煽り、店の奥では小競り合いの声が聞こえる。また入店したアリッサに目を向けた者は、遠慮もなしに欲望の視線を舐めるように注いできた。居心地の悪い場所ではあるが、此処で退店するのは怖気づいたように思えて出来ない。
アリッサはもじゃ髭を蓄えた店主が構えるカウンターの真ん中に座った。隣で酒を煽っていた小汚く、無精髭を生やした男がちらりと見たが、興味を失ったようで小競り合いの方に目を向けた。アリッサは杯を拭いていた店主に言う。
「葡萄酒をいっぱいくれ」
「・・・此処はてめぇみてぇな女が一人で来る所じゃねぇぞ」
「私がそんなに軟に見えるか?葡萄酒だ、出せ」
「・・・俺は忠告したからな」
店主はそうごちながら杯を取り出して、十秒も経たぬうちに葡萄酒を用意してカウンターの上に叩き付けるように出す。アリッサは見て一目で分かる安酒を喉を鳴らして嚥下する。酸味だけが際立ったちゃちな酒であるが、酔いを身体に蔓延させるのには打ってつけであった。
アリッサとて騎士である前に、女性である。男性経験は皆無だが、酒はそれなりに飲めるし、それを忌避するような事はしない。寧ろ気分を発散させるために進んで嗜んだりもする。裏市場で出回るような違法薬物に手を出すよりかは、余程安全で、自然な趣味であると彼女は自覚していた。
肴もなしに杯の半分ほどを煽った所で、喧騒の声が一段と激しくなった。罵声や殴打の音も聞こえてきて、椅子が蹴り倒されたのが分かった。隣に座る男が呆れたように言う。
「あーあ。また始まったな・・・」
「何がだ?」
「んあ?喧嘩だよ、馬鹿らしい。あいつら、どっちも娼婦に生活費を注ぎ込みまくってるから・・・」
ちらりと見ると、酒臭い者達を観衆として、二人の男が殴り合っていた。共に赤ら顔で、涎や鼻血などを垂らしている。
「賭けるか?俺はあのオデキだらけの方に10モルガン賭けるぜ」
「・・・20モルガン、反対の奴にだ」
「はぁ?あの、デブにか?冗談言うなよ。あいつはこの前、オデキのやつに10日分の賃金を奪われたばっかなんだぜ。そんな意気地なしが勝てる訳ないだろ?」
「黙って見ていろ」
アリッサの視線が結果も見ないうちについと逸らされる。男は俄かに気分を害したようであるが、再び諍いの方へと注意を向け、徐々にその眼つきを険しくさせた
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