幕間+アリッサ:酔いどれの悪夢 その1
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の案の実行が容易であるという証左であり、裏には政治的な欲求があるとも推測できる。王女に取り入りたいとか、或は自分が商人を動かす立場にあると内外に示威したい、等だ。
アリッサは彼の微笑みを受けて、社交的に喜びを露わとした。
「それはとても嬉しい御言葉です!訪ねた甲斐がありました。・・・しかし聞くのもなんですが、このような遅い時間に商人らは動くのでしょうか?それに、あなたの配下の方々も」
「御心配には及びません。この街の商人は夜になってから精を出す者が多くてね、私やギルドマスターの声が掛かれば、すぐにでも動き出すような者達ですよ。それに大通りに面する店というのは、私と懇意にしている商人ギルドの長の管理下にあるのです。誰も彼に逆らうような真似はしませんよ。念願適って漸く出した店を、つまらないケチで潰したくないですからね」
「そ、そうなのですか。あまり、乱暴はしないで戴きたい。王国の街で争いが起こるのを、王女殿下は御望みではありませんから」
「それこそ、無用な御心配ですぞ。私は王女殿下を心より慕っておりますからな。・・・ところで」
「はい、なにか」
「・・・そのバッジ。凄く良いですな」
ワーグナーはそう指摘して、アリッサの鎧の肩章の辺りに留めてある女性を描いたバッジに羨望の視線を向けてくる。つい先日パックより頂いた、美しき姫君のバッジだ。これを頂いた後アリッサは一人になれる時間にこれを付けたりしていたのだが、自分が思った以上にこれを気に入ってしまい、今ではすっかり大事な私物扱いとなっていた。王都に帰れば確りと仕舞うつもりなのだが、それまでは常に身から離さず持っている心算である。今日とてほとんど見せびらかすために付けたようなものだが、意外と人の興味を惹けるものだ。
アリッサは自分が褒められたような気がして、誇らしい思いとなる。
「ふふふふ、そうでしょう?」
「・・・欲しいですな」
「あげません」
「くそ、なんて世の中だ!」
その悔しげに歪む顔の、何と幼き事か。アリッサは心の中でワーグナーに対する評価を改めた。この御仁はミシェルやパックと同じ輩だ。どうしようもない、唯の馬鹿な大人なのである。但し仕事は非常によく出来るが。
このような慎ましき会話を交えて、意気揚々として館を出ようとした時だ。思ったより時間を潰してしまったようである。街路には街灯の明かり一つ無く、僅かに民家の暗幕から覗く蝋燭の火や門前の松明だけが頼りとなるだけで、女性一人で歩くには物騒なほどの暗さである。雨はすっかりと止んでいるが、風は少し肌寒い。
アリッサは灰色の外套を鎧の上に羽織らせて、肩章につけたバッジを仕舞い込むと、戦果を報告しに宿屋へと赴こうとする。そうして二分ほど歩いていると、正面より一人の男が見えてきた。身体を黒いマントで覆った怪しい
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