幕間+アリッサ:酔いどれの悪夢 その1
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壁に掛けられた蝋燭の光によって、中流階級なら誰しも手を伸ばしたくなるような品の良い調度品がその艶やかな肌を輝かせる。子供の泣き声も静まり返り、男女の営みの響きだけが存在するような遅い時間帯であるのに関わらず、館の主の一室では激しい説得の声が響いていた。その声を出すのは忠実にして若干趣味に偏りがある王国の兵士、ミシェルとパックであった。
「って訳なんだよ!どうか、どうか助力を!」
「そうなんだ!王女様のためなんだ!分かってくれるよな?」
「・・・気持ちは分からんでもないがな。幾らなんでも性急過ぎやしないか?」
でっぷり、という擬音が似合いそうな太った体躯の男性が、性的な厭らしさを滲ませるような肥えた口でそう呟く。この男、こう見えて各方面に人並み以上の経済力でもって太いパイプを持つ男であり、豚のような見た目の割にそれなりに頭も切れる。それを説得の中の会話で十二分に理解している二人は、決して焦りを見せず、静かに男の話の続きを待った。
「大体、君らの言う祭りとやらは、随分と規模が大きそうじゃないか?なんだいそれは。街の者が手を出し合って、屋台を開こうというのは。そんな大掛かりなものが僅か半日程度でどうにか出来ると本気で思っているのか?」
「出来ると思っている。裁縫ギルドと鍛冶ギルド、両方のギルドに太いパイプを持つあなたなら、こんなに遅い時間でも商人たちを呼び起こす事が出来る。俺らはそう確信している」
「おい、いい加減にしたまえ。私にそんな権限があると本気で思っているのか?下手をすればパイプの先を切断されて、暗闇の処刑台に吊るされるかもしれんのだぞ?」
「自分を過小評価すんなって。あんたは結構根回しが得意だって噂だぜ?たとえばこの前、神言教の信者たちの交友会に、選りすぐりの娼婦を通したのもあんたなんだろ?」
「更に言えば、小汚い糞共が衛兵達へ賄賂を通して、商人たちの独善的な商行為を取り締まらないよう働きかけてるのも、あんたの指示によるものなんだってな。中々目の付け所がいいじゃないか、浮浪者なんてよ」
「ど、どこでそれを?」
「風が教えてくれたのさ。勝手にな」
「だから根も葉もない噂がふわりふわりと、どこかに流れてしまうのも、偏に風のせいだ」
街のごろつきも肝を冷やすような暗澹とした微笑を浮かべて、兵士の二人は悠然とした態度を崩さなかった。説得の合間に見せる強気な脅しは、兵士として培った経験によって底上げされ、それが冗談半分で出されたものではないという思いを男に強要させるに十分であった。
禿げた頭に汗を滲ませて、男は警戒したように二人を見比べる。ミシェルは頬を釣り上げて笑みを浮かべた。
「悪い話じゃないぜ?たった半日の安眠と女を我慢するだけで、あんたは双方のギルドに莫大な利益を齎す事が出来るんだ。想像してみろ。大
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