アインクラッド 後編
過ぎ去った時間、消え去った影
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返した。最近は意味を誤解して覚える者も増えている。本当の意味を知っているのは、下手をすれば“彼ら”のみではないだろうか。全く、皮肉なことだ。
「えっと、見た目年も近そうだし、『マサキ君』って呼んでもいい?」
「……お好きなように」
「ありがと。……そっか、マサキ君って言うのかぁ……ふふっ、今までボス攻略で何度も顔を合わせていたのに、名前を知るのは初めてだなんて。なんだか可笑しいね」
くすくすと笑うエミに対し、マサキは視線で会話の意思がないことを訴えるが、マサキの内心などは気にも留めていないのか、それともあの彼女のことだ、「自分と喋ることで憂鬱な気分を少しでも晴らしてもらえたら」などといった忌々しい親切心が働いているのか。エミは楽しそうに笑いながら舌を動かし続ける。
「でも、最初にマサキ君を見たときは驚いたなぁ……。だって、そんな格好で戦う人がいるなんて、思いもしなかったから。……あ、その服が変ってわけじゃないよ? すっごく似合ってるし」
「……それはどうも」
気だるげに答えながら、マサキは自分の服装に目を落とした。
仄かに青みがかった地に同系色のグラフチェックが入ったYシャツと、黒のスラックス。……そして、視界に映る二枚のレンズに、そこから両脇へ伸びるフレーム。夏のビジネスマンめいた様相は、この世界ではもちろん希少、というか浮いているものではあるが、その分少しだけ、向こう側の世界にいた時の心情を再現してくれる。心が感じる寒さを麻痺させるにはちょうどいい。
「――そういえば、マサキ君。明日のクリスマスボス戦には参加しないの?」
こちらの興味を引こうとしているのか、まるで敵陣地にあるマシンガンのように切れ目なく喋り続けるエミ。マサキは最初無視していたが、彼女の話がその話題に入った時、ハーフリムの眼鏡の奥から覗く切れ長の瞳がエミをその視界に捉えた。ようやく話に食いついたからか、エミは顔に浮かべる笑顔に安堵の色を滲ませて、尚も喋る。
「各層のNPCが最近になって一斉に言い出したんだけどね。明日の夜十二時ちょうどに、どこかのモミの木の下に《背教者ニコラス》っていう怪物が出現するんだって。で、それを倒すと背中の袋に詰まってる財宝を全部もらえるみたい。……確か、まだメンバーを募集してた合同パーティがいくつかあったから、そこに行けば参加できると思うよ? なんだったら、わたしが紹介しようか?」
「……いや、いい。俺も暇じゃない」
「そう……分かった。あんまり無理強いすることでもないしね。……あ、そうだ」
マサキが断ると、エミは残念そうに頷き、なにやらウインドウを操作し始めた。僅かの沈黙が流れた後、マサキの眼前に紫のフォントが浮かぶ。彼女――エミからのフレンド申請だ。
訝しむマサキに、エミはまた柔らかい笑
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