アインクラッド 後編
過ぎ去った時間、消え去った影
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――ひらり。
光のない夜の世界を、ひとひらの雪が舞った。昇ったために凍りつき、集ったが故に重くなり。そして、遂に雲にまで見放された憐れな氷の結晶たちが、同じく空を追われた同胞を捜し求め、地面へと堕ちてゆく。まるで、傷を舐め合うか弱い仔犬たちのように。
――はらり。
俄かに駆けた一陣の風が、吹き抜けざまに周囲の雪を巻き上げた。音もなく、温度もなく、ただ無機質に走り続ける空虚な空気の塊は、舞い上がる雪の欠片などには目もくれず、何処にあるのかも分からない光を目指して駆け続ける。
冷たい夜の世界に凍える自分を温めてくれる、たった一粒の光を求めて……。
悲鳴のような破砕音を断末魔に残し、緑の鱗に身を包んだレベル54亜人型モンスター、《リザードマン・ファイター》はその筋骨隆々とした体躯を闇夜に散らした。仲間がやられたことに驚いたのか、数メートル後方のリザードマン二体の手に握られている薄汚れたカトラスが、ほんの一瞬だけ引き攣ったように動きを止める。
マサキはその僅かな隙に、迷うことなく飛び込んだ。上体を低く倒し、ほぼ全てのポイントをつぎ込んだ敏捷値を総動員して足元に積もった雪を蹴り飛ばす。リザードマンが苦し紛れに放った《リベーザ》がマサキの攻撃を阻もうと肉薄する。
しかし、その刃がマサキを捉えようとした瞬間、その体が静止した。いや、実際には止まっていないものの、スローモーションかと疑ってしまうほどにまで緩められたスピードに、最後の砦であったはずの《リベーザ》はあっけなくタイミングをずらされ、虚空を斬る。途端、再び最高速まで加速したマサキが無防備な鱗を両断しつつ斬り抜ける。振り返ってトカゲの硬直が解けていないと見るや、反転して再び切り抜け。
《疾風》と大差ない速度で移動し、なおかつ自由に緩急をつけることが可能な風刀スキル五蓮撃技《雪風》の全段を体で受けきったトカゲは、反撃すらままならずに緑色の体を塵と変えた。
「ぐるああぁぁぁっ!!」
残された一体がマサキに向かって半ばやけくそにも思える突撃を敢行した。が、とっくに硬直から開放されたマサキは難なくカトラスをかわし、目にも留まらぬ速さで蒼風を一閃。《刃風》――発動中の移動可能距離は一、二歩程度だが、その分攻撃速度に凄まじい補正がかかる風刀スキル三連撃技――が撒き散らした光の滓が消える頃には、トカゲの全身も同じように、この世界から姿を消していた。
「…………ふう」
周囲に他の敵影がないことを《索敵》スキルで確認したマサキは、蒼風を鞘にしまいつつ一息。戦闘による風と音が鎮まり、舞い上げられた雪が再びしんしんと降り積もりだす。
不意に手の甲を伝った冷感にマサキが視線を下げると、一粒の雪の結晶が
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