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ヘンゼルとグレーテル
第一幕その一
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もあったっけ」
「あったわよ。だから」
「卵ケーキでも振ってきたらね、それで」
「バターロールも」
 そう言った途端に二人のお腹がギュルルと鳴りました。
「ずっと食べてないよ、どちらも」
「どんな味がしたのかしら」
「甘くてとても美味しいのは覚えているけれど」
「食べてないと。忘れるんだね」
「ええ」
「どうしよう」
 ヘンゼルは妹に顔を向けて尋ねてきました。
「どうするって?」
 グレーテルはそのふっくらとした赤みがかった頬の顔をお兄さんに向けました。
「お腹が空いたのは」
「どうしようもないわ」
「けれどさ、どうにかしないと晩御飯までもたないよ」
「おやつなんかないかな」
「おやつ」
 妹はそれを聞いて考え込みました。
「お外に出て何か探す?」
「何を?」
「野苺か。それとも山羊さんのミルクを飲ませてもらうとか」
「ミルク」
 ミルクと聞いたヘンゼルの顔がピョコンを上がりました。
「そうだよ、ミルクだよ」
 そしてグレーテルに対して言います。
「ミルクがあったよ、グレーテル」
「何処に!?」
「ほら、そこにさ」
 そう言って台所の片隅を指差します。
「そこにあるじゃないか」
「あれ!?」
「そう、あれだよ」
 そこには一つ大きな壺がありました。そこにミルクが入っているのです。
「あのミルクをちょっと頂こうよ」
「駄目よ、兄さん」
 けれどグレーテルはそんなお兄さんを止めました。
「あれは。大切なミルクなのよ」
「そうなの?」
「もうあれだけしかないから。お母さんが帰ったらミルクでお粥を作るって言ってたわ」
「ミルクのお粥!?」
 ヘンゼルはそれを聞いて顔を輝かさせました。ヨーロッパで粥と言えばオートミールです。大麦を粥と同じように炊くのです。そこにミルクを入れて見事完成です。とても美味しいのですよ。
「そうよ、ミルクのお粥」
「いいよなあ、僕あれ大好きなんだ」
「私もよ」
 食べ易くて甘みもあるのです。すきっ腹にも丁度いい。お粥は実にいい食べ物です。

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