暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜黒の剣士と紅き死神〜
マザーズ・ロザリオ編
転章・約束
剣士の選択
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「……帰れ」

夜もそろそろ更けて来た午後10時。出掛けていた沙良と共に現れたのは結城明日奈。
御歳18になる年頃の女の子である。しかも彼氏持ち。

「む、何でよ」
「彰三さんが心配してる」

俺が手に持った通話状態の携帯を指差すと、明日奈は《閃光》の名に恥じない速業で携帯を奪い取ると、通信を切った。

「オイコラ、この不良娘!何しやがる」
「……お兄様に『家出』で不良扱いされる謂われは無いと思いますよ?」
「ぐっ……」

それを突かれると何も言えない。明日奈から携帯を取り返すと彰三さんに掛け直しながら部屋に戻る。

「どうやら反抗期みたいですね……」
『はぁ……。分からないでもないが、僕は京子さんに何て言ったらいいんだい……』
「まあ、雪も降り始めたみたいですから……沙良に任せますよ」
『ああ、すまないね。お母さんに例の件、考え直すように私が言っておくと伝えてくれ』
「例の件、ですか?……ああ、いや、いいです。伝えます。お休みなさい」

ため息と共に通話を切り、部屋に入る。携帯を置いて彰三さんの伝言を伝えるべく居間に戻ろうと扉の前に立つと、丁度それを叩く音がした。

「螢君、ちょっと良いかな?」
「……扉越しなら」

暫しの沈黙の後、僅かに了承の返事が返ってきたので、俺は扉に背を預けるようにして床に座った。

明日奈の話は先程の『例の件』についてのようだった。

明日奈はもうALOにログイン出来ないかもしれない事、学校を変わらなければならない事。
そして……あの世界の時のように、誰にも頼らない、自立した強さが欲しい事を吐露した。

「……そうか」
「……誰にも、和人君にも言わないでね」
「もちろん」

だからこそ俺に話したのだろう。誰でも良かったのなら、まず和人に相談すべきことだからだ。
つまり、明日奈は自分の問題だから、自分で何とかしたいと思っているのだろう。
だから俺も今は明日奈に何も言わない、俺は応援するだけだ。

「……彰三さんが、お母さんに話してみるそうだ。だから、明日奈ももう一度お母さんと話してみるといい。相手が心を閉ざしているのなら、自分が開くしか無い。………お前は《心の強さ》でSAOをクリアした剣士だ」

明日奈にしか言えないことを、明日奈を理解出来ていない人物に伝える。

何と難しい事だろうか。

たが、明日奈は乗り越えるだろう。





沈黙が続き、やがて扉の向こうで明日奈が動く気配がした。立ち去るのかと思い、俺も立ち上がった時、明日奈の口から意表を突く言葉が発せられた。





「ね、螢君。ユウキの事、教えて欲しいな」




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