第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
006 策士とお菓子
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劣勢を自覚した。目の前のお嬢さんに、ドギマギしている時点で、敗北間近である。艦隊戦で言うならば、旗艦に敵の揚陸艦がツッコみ、陸戦部隊が攻め込んできた段階である。いや、それはどこのローゼンリッターだ。
いやいや、そういう問題ではない。
「嬉しい?」
「も、もちろん」
「それだけ?」途端に、ジェシカの目が潤んできた。「先輩にとっては私の告白も嬉しいだけなの?」
「いや、そんなことは」
涙が一筋、左の目から零れ落ちた。彼女は笑ったまま、泣いていた。
器用だな、とフロルはどこか他人事のように頭の片隅で思っている。それと同時に、もうフロルはポリシーを曲げざるを得ないということも、理解していた。
そうと決まれば、覚悟も決まる。さきほどまでの動揺は、すっかり消えていた。
右手を伸ばし、彼女の涙を拭った。
「我が儘な後輩だな」
「失礼ね」
その右手で彼女の頬の輪郭を撫でる。
「後悔しないでくれよ」
「それは私がするものよ。先輩が気にすることじゃないの」
フロルは一歩、ジェシカに歩み寄った。
ジェシカは目を瞑り、顎を少し上げた。
フロルはそのまま顔を近づけ??ジェシカの額にキスを落とす。
「今はここまでだ」
ジェシカはぱっと目を開くと、口を尖らせた。
「へたれ」
「段階を踏んでってのが好みなんだ。だから今度デートに行こうか」
??可愛い彼女さん。
使い古された表現が頭に思い浮かんだ。まるで、雨の後に花が咲いたような、そんな綺麗な笑顔。
ジェシカはひとつ、頷いた。
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