暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール
第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
006 策士とお菓子
[7/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ないじゃないか」
「実は友達に、今日フロル先輩が遊びに来るんだって言ったのよね」
「へ、へぇ」
 ジェシカの口は弧を描いている。
「しかも、なんの偶然がお父様もお母様もいないのよ、ってね」
 フロルは今更ながら、そこにいる少女がヤン並みの策士であることに気付いた。彼女が軍人を目指したならば、少なくともフロルを超える傑物になりえただろう。
 フロルの識っている歴史であれば、彼女が同盟反政府派の旗印となって、議員としてその組織をまとめあげていく手腕が、ここでその片鱗を見せたということなのだろうが、無論フロルにとってしてみれば見せなくていい片鱗である。

 困ったことになった、とフロルは気付いていた。前々から彼女の好意に気付いていたが、ここまでの行動に出るとは思っていなかったのだ。きっとジェシカの喧伝によって、フロルが学校に戻った時には、フロル・リシャールに年下の見目麗しい彼女が出来たことが学校中に広まっているに違いない。ジェシカとフロルの学校が違おうが、そんなことは関係ない。ジェシカはしっかりこちらの一手先を読んで、手を打っている。それに、先の廃止撤回運動でジェシカの顔は学校中に知れ渡っているし、もしかすればあの運動すらこの展開を見越してのことだったかもしれない。
 そうだとすれば彼は随分前から、ジェシカによって罠に誘い混まれていたのだろう。ラップやヤンと遊ぶ時にジェシカがついてくることが多かったのも、キャゼルヌ先輩やアッテンボローともいつの間にか意気投合していたことも、みんなで遊ぶ時ジェシカとフロル以外全員に急用が入ってなぜか二人だけでデートすることになったことも、すべてジェシカによって仕組まれていたに違いない。
 ラップとヤンにジェシカが付いてくることを、仲良くなって結構、などと満足していたフロルは、今更自分の間抜け具合に気がついた。
 好意を持っているどころではない。
 完璧にフロルは罠にかかったウサギだった。

「フロル先輩は私のこと、嫌い?」
「まさか!」
 フロルは即座に否定した。
 そんなわけはない。こんな可愛くて美人な後輩が、先輩先輩と慕ってくれることを嫌う人間がいようか。金髪で碧い目を持った、将来美人確定の美少女である。人を罠にかけようが、悪女になる資質が見え隠れしようが、やはり嬉しいものは嬉しい。原史??原作の歴史??の登場人物である以上に、今ではフロルの大切な友人なのだ。
 問題は、フロルにとっては後輩、友人というカテゴリを超えないということだったが。

「私はフロル先輩のこと、好きよ。だから付き合いましょう?」
 彼女は彼女は白い歯を見せながら、微笑みながらそう言った。綺麗な歯並び。言葉を発する度に見え隠れする赤い舌すら、やたらと蠱惑的に見える。
「それは嬉しいなぁ」
 フロルは自分の圧倒的な
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ