第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
006 策士とお菓子
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、新学期。
国防軍士官学校に二人の人物がやってきた。
一人は、ヤン・ウェンリーの二つ下の後輩として入学してきた、ダスティ・アッテンボロー。
もう一人は事務局次長として赴任して来た、アレックス・キャゼルヌ大尉。
どちらも将来のヤン・ウェンリーにはかかせない人物であって、そしてフロル・リシャールにとっても終生の友人であり続けることになる、二人であった。
***
午後のダイニング・キッチンには、日の光が存分に入って、冬も深まるその季節であっても、過ごしやすい暖かさだった。
白を基調にした壁紙に、濃い茶色を中心とした派手すぎない家具は、そこに住む人のセンスの良さを如実に表している。壁際に置いてある小さなテーブルには、TVフォンの受話器、空のインク・ボトルに入ったカリフラワー、三人家族の笑顔が収められた写真立て。
フロルは自分で持ってきたエプロンを身につけると、Yシャツの両腕を捲る。写真の中の人物を見ると、やはりフロルが士官学校で見たことのある事務局長が映っていた。ジェシカの家に来ているのだから、違う人物が写っているはずは、そもそもなかったのだが。
「いい写真だな」
フロルは自分の家族を思い浮かべながら、そう呟く。思い返してみれば、自分の士官学校の部屋には、写真も置いていない。持ち歩いている携帯端末には、もしかしたら家族で映った写真が入っているかもしれないが、それも定かではなかった。フロルの部屋にはコルクボードが架けられている。メモを貼り付けるだけでは味気ない。写真をプリントして飾るのも、悪くないアイディアだった。
「でしょう? 音楽学校に入学できた年に、家族で旅行に行ったの。その時に撮ってもらった写真。写真は何枚も撮ったのに、三人一緒に写った写真はそれしかないの」
「よくあることだ」
「でも、気に入ってるから文句はないわ」
手を洗ってきたジェシカが、フリルに縁取られた白いエプロンを身につけ、現れた。フロルも既に手は洗っている。
二人は、これから養護施設に持っていくカップケーキを作ろうとしているのだった。
季節は10月末。
世に言う、ハロウィンであった。
かつての時代に比べ、さまざまな宗教行事はその宗教色を失い、ただ人が楽しむだけのイベントとして存在している。ハロウィンもまた同じく、仮装をして「Trick or Treat!」と子供たちがはしゃぎ回るだけの年間行事であった。それがかつてイギリスの民族宗教から始まった魔除けの儀式であることなど、宗教学者か歴史学者くらいしか知りえない。
ちなみに養護施設にカップケーキを持っていくということは、フロルが毎年好きでやっていることだった。フロルの趣味、と言っても良い。
フロルの前世は、
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