アインクラッド 前編
噛み合った歯車
[1/9]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「かんぱーい!!」
「乾杯」
緩やかなBGMが流れるテーブルの上で、グラス同士が擦れ合う、澄んだ音がたなびいた。泡立つ金色の水面が傾けられ、二人の口へと注ぎ込まれていく。
「……プハァ! 何コレうまっ! シャンパンってこんなにうめーの!?」
「まあ、現実の味をどれほど忠実に再現できているかは分からんがな。値段によってもピンからキリまであるだろうし」
そう言うと、マサキは中身の減ったグラスを置いてナイフとフォークに持ち替えた。
――今二人がいるのは、二十三層主街区の高級レストラン。二十三層に到着して転移門をアクティベートさせた後、トウマの強い希望で寄った場所だ。強制連行されたとも言う。
そして一番乗りしたレストランの席に着くなり、トウマの口からシャンパンにフレンチのフルコースという、些かぶっ飛んだオーダーが飛び出した。別にここでアルコールを飲もうが毒を飲もうが法律的には何の問題もないのだが、予算的にはそうもいかない。そこをマサキが尋ねると、曰く“二十二層ボス攻略成功記念パーティー”らしい。
「ところでさ」
あっという間に前菜を平らげたトウマが、ナプキンで口を拭いながら言った。マサキはフォークに刺さったサラダを口に運びつつ、視線で先を促す。
「――あの梟なんだけど。どうしてマサキには位置が分かったんだ?」
「――ああ。あれは“風”だ」
「風?」
「そう。風。……お前が攻撃を受けていたとき、僅かだがあの部屋に風が吹いていた」
「マジで? 気付かなかった……けどさ、それだけじゃ何も分かんないだろ?」
トウマの質問を聞きながら、マサキは皿に残る最後の野菜を口に運んだ。程なく黒のスラックスとベスト、白のYシャツに身を包んだNPCウエイターが2人やってきて、前菜の皿を下げると同時に琥珀色のスープを差し出す。
マサキはスプーンで一口それを飲んでから、続きを話し出した。
「俺たちがボス部屋に入った時、カビ臭いような臭いがしただろう。あれは部屋の空気が長い間入れ換わらなかった証拠だ。……つまり、あの部屋に自然に風が吹き込むことはありえない。部屋の状況を考えれば、必然的に梟が起こした風だと断定できる」
「あー、なるほど。あの臭いってそういうことだったのか……ってそれでも」
「分かってる」
疑問から納得、そしてすぐに再び疑問へと続けざまに表情を変えるトウマの言葉の続きは、あらかじめそれを予測していたマサキの落ち着き払った声によって遮られた。マサキはスプーンで琥珀色のスープを一口すくい、喉を湿らせる。
「……確かにそれだけでは敵の位置はおろか、ブレスなのか突進なのかも判別できない。だが、あの風邪はもう一つ、重要な情報を内包したファクターを孕んでいたんだよ。……即ち、音。正確には風切り
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ