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無明のささやき
第十八章
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感じた。一連の事件も奴が仕掛けている。間違いない。」
西野は涙を手で拭い、さらに続けた。
「しかし、南が言いたかったことは全く別のことだ。つまりこうだ。私は、南を香織の婿として迎えた。南にとって夢のような話だったはずだ。三流大学出身の男が一流会社の経営陣に迎えられたのだから。」
大きく息をし、続けた。
「例の産廃プロジェクトの失敗で、会社は潰れそうになった。俺は、その時、南の出番が来た。恩返しをしてもらおうと思ったんだ。」
こう言って、天井を睨み、顔をくちゃくちゃにして涙を堪えている。香織がわーっと大袈裟な泣き声を上げ、会長の袖に顔を埋めた。意外な話の展開に、飯島は呆然と立ち尽くした。
「何が言いたい。俺は南に、銃撃した理由を聞いた。その答えが、会長に操られたという一言だった。」
飲み込みの悪い生徒を諭す先生のように、会長は静かにゆっくりと言葉を発した。
「飯島、落ち着いて、良く聞け。さっきも言ったが、南は全く別のことを言いたかった。死ぬ間際になって、南は、かつて友人だったお前にだけは、本当のことを言い残しておきたかったんだ。」
西野はしゃくりあげ、洟をすすりながら話した。
「私は4年前、南に300人のリストラを命令した。南は相当悩んでいた。かつての先輩、同僚を切り捨てるのだからな。悩むのは当たり前だ。だが、或る時、南は人が変わった。私の期待に応えて、めきめきと実力を発揮し始めた。」
飯島は困惑気味に聞いた。
「それが、南の真意だと言うのか。操られたと言ったのは、そのことだと言うのか。」
会長は目を閉じ、往時を思い出している。
「ああ、そうだ。間違いない、私には分かる。私には荷が重すぎた。たとえ会社を救うという大義名分はあっても、社員の首を切るなど、とても出来ることではない。私は組織から退いた。そして南が私の代わりを務めたんだ。南にしてみれば私に操られたと思っていただろう。憎しみの矢面に立たされたのだから。」
涙ぐむ西野を見詰めながら、飯島は冷静さを取り戻しつつあった。南のうわ言の真意がようやく飲み込めたからだ。そしてこんな場面でも、事態を解説したがる西野という男の軽薄さが疎ましかった。自分の鋭さを披瀝しないではいられない軽薄さだ。
 とはいえ、飯島は、想像もしなかった事実と直面することになったのだ。それはリストラの本当の実行者は南ではなく、西野会長だったことである。西野に対する怒りがむらむらと沸き起こった。飯島は唸るように言葉を吐いた。
「みんな、あんたを信じていた。あの大不況のなか何年も歯を食い縛って頑張った。あんたを心から信頼していたからだ。あんたが失脚して、リストラが始まった。頑張った連中が軒並み犠牲になった。みんなあんたを信じて、部下達を引っ張ってきた連中だ。」
西野はぎょっとして、自分の喋り過ぎに思い当たった。
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