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無明のささやき
第十五章
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、八王子のホテルの従業員に見せて下さい。」
「分かった、分かった。事件の匂いがしてきた。最初から調べ直してみるよ。」
「そうして下さい。」
飯島は電話を切った。

 とはいえ、飯島が開放されたのは12時を過ぎていた。雑踏のなか、飯島は気が気ではなかった。誰かが自分を狙っている。石原が言うには、警察はトラック運転手、三枝の周辺を徹底的に探ったが、佐久間との繋がりは何一つ見出せなかったという。ということは、すれ違う誰でも殺人者でありうるということである。
 周りを窺いながら、飯島はようやく新宿駅までたどり着いた。駅の構内で、石原の事務所に電話すると、新入りの事務員が出て、今日は休んでいると言う。飯島は、携帯を切って歩き出した。石原はまだ立ち直っていない。飯島はため息をついた。
 行き交う人々が皆怪しく思える。中央線に乗って、席を確保し、目を光らせながら八王子を目指した。行き先は石原の自宅マンションである。緊張しているとはいえ、座席の暖房がぽかぽかと暖かく、飯島は睡魔と戦い、目を無理矢理開いている。
 飯島は先程の不思議な体験を思いだしていた。やはり以前から考えていた通りだった。あの時、危険を感じて左に飛んだ。その瞬間、時間がゆっくりと流れ始めたのである。飯島はその瞬間を思い出し、ぞくぞくするような興奮を味わった。
 実を言うと、飯島はこの時が訪れるのを長年待ち望んでいた。不思議体験で分かったことは、時間は冗長に流れるが、意識は全く正常に働くということである。従って、もし正常な意識でいつものように体を動かせれば、それは驚異的な速さになるはずである。
 そして現実は正にその通りになったのだ。信じられない奇跡が起こった。だが、ふと、疑問が湧いた。本当に時間がゆっくりと流れたのか、それとも意識と体が極端な速さで動いたのか、どちらであろうか。飯島はいつのまにか深い眠りに陥っていた。

 石原は眠そうな目を擦りながらドアを開けた。目が合うと、一瞬迷惑そうな顔をしたが、すぐにドアチェーンを外した。飯島は広いリビングに通された。石原は無言のままキッチンへと消えた。
 飯島の部屋ほどではないにしろかなり雑然としており、高級そうな輸入物の酒瓶がいくつも転がっていた。石原は、カンビールを二つ持って、リビングルームに戻ってきた。一つをテーブルに置いて、自分は先にキャップを開けて飲み始めた。
 暖房は入れたばかりで、部屋はまだ寒い。ビールなど飲む気になれない。石原は恐らく二日酔いの迎え酒なのだろう。それほど飲める口ではなかったはずだ。石原の傷が癒えるのには相当時間がかかりそうである。飯島が口を開いた。
「今日、和子を襲った二人に、俺も襲われた。午前4時、中野のビジネスホテルに押し入ってきた。家は見張られているような気がして、ずっとそのホテルに身を隠していた。
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