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無明のささやき
第十四章
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知らない。」
「その名前を言ったとき、君の体がピクンと反応した。」
「向田敦、ふーん、覚えがない。いったい誰なの、それ?」
その顔は本当のことを言っているのか、それとも惚けているのか判然としない。これ以上聞いても無駄だと悟った。香織が急に拳を振り上げ激昂して叫んだ。
「ふざけんじゃない。南の馬鹿野郎が。私を舐めるなよ。ビデオのことで私を責めようと思っていたようだけど、自分だって散々好き勝手やってきたじゃない。ふざけんじゃないよ。あれは所謂事故よ。薬を飲まされたんだから避けようがなかった。それを責めるような目つきしやがって。ホスト遊びでもしなけりゃ納まらない。」
罵詈雑言は延々と続いた。
 しばらくして、言葉に詰まった。最後の言葉を何度か繰返した。そして、ふうふうと深呼吸をし始めた。香織は、そのまま、ばたんと畳に倒れ、顎を着けて眠り込んだ。香織が、竹内に垂らし込まれたのが頷ける。香織をホテルに連れ込むのに、睡眠薬など必要なかったのかもしれない。
飯島は弱り果て、襖を開けると、店主を呼んだ。店主は苦笑いしながら、カウンターから出てきた。
「どうも、ご苦労様です。ようやく眠りましたか。」
「いつも、こんなに酔っ払うんですか。」
「さあ、どうですか。」
店主は分けの分からない返事でお茶を濁した。飯島は外に出ると、ボディーガードに声を掛けた。
「奥様は、おねむだ。」

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